OSAMUGOODS COMPANY

OSAMU'Sマザーグースのキャラクター達が、9編の楽しい物語の主人公になったスペシャルブック。
ファンなら誰もが枕元に置いていた本、『BEDTIME STORIES』をご紹介します。

● お台所より愛をこめて オールド・マザーグース

酒井 チエ

P. 126 - 135

はじめにちょこっと

 私は八月生まれの乙女座で、もうすぐ〇十六才になるおばあちゃんでございます。子供達は皆大学を卒業して、それぞれにニューヨーク、ボストン、ソルトレイク・シティ、スプリング・フィールド、カリフォルニアのマリブ・ビーチへと、わたくしの手元を離れて行きました。現在はここコネティカットで、主人と二人きりの気楽な毎日を送っております。まぁ二人きりと申しましても、若い頃とは違いまして、おおよそロマンティックとはかけ離れた静かな暮らしでございますけれども。多分、そんなわたくしの毎日を退屈ではなかろうかと心配して下さったのでしょう。古くからのお友達が、わたしくのために、こうして若いお嬢さん達にお料理のお話などをさせていただく機会を作って下さいました。お心遣いを感謝するとともに、わたくしのような者に楽しいお話ができますかどうか心配もいたしております。

 初めにお約束をしておきましょう、本物のシェフさんのような難しいお料理には挑戦いたしませんと。「手間をかけずにできるもの」というより、「考えていたよりも作ってみると案外簡単なもの」だけをほんのいくつかご説明したいと思います。原則として、塩加減などは明記いたしません。お味見なさって、お好みでお決め下さるのが良ろしいかと存じますので。さぁ、それではまず御献立など考えながら、お買い物にでも参りましょうか。

 

ピックルスだってホームメイド

 毎週金曜日には、自分で車を運転してスーパーマーケットまで参ります。実はわたくし、ほんの時たまですけれど、ちょっと遠回りをしてフリーウェイに出て、スピードのスリルを楽しんだりすることもございますのよ。老け込まないためにとか何とか勝手な理由をつけましてね。先日もあまり良いお天気でしたので、ついその気になって飛ばしておりましたら、大変! パトロール・カーに追い掛けられてしまいましたの。お巡りさんはわたくしの顔を見て呆れてましたわ。後ろから見た時には、多分もっと若い女の子だと思ったのでしょうね。「奥さん、御自分が一体何マイル出しておられたか、お分かりですか。レディーにお歳を伺うのは失礼ですから、今回は伺いませんが、それにしても若い者の手本となるべきお年寄りがこんなことをなされていては困ります。」ですって。勿論素直に謝って、すぐに許していただきましたけれども。このことは主人にも子供達にも内緒にしておりますの。もし知られましたら、きっとわたくしのがちょうさん(=大好きな白のコンバーティブル)を取り上げられてしまいますわ。「危ない危ない」って、あの人達ときたらそりゃもう心配性なのですから。

 ええと何のお話でしたかしら、そうそう、スーパーマーケットのお話でしたわね。あそこには、よく同じラヴェルの缶詰だの瓶詰めだのを、すらっとそろえて山のように積み上げてございますでしょう。わたくし、お店にはいりますと、いつもわざわざ少し離れた所に立ってあれを眺めますのよ。そしてその度に、モダーン・アートのような感じで楽しいなと思うのでございます。

 それにいたしましても、本当に何でも簡単に買うことのできる便利な時代になりましたこと。でもわたくしは、手作りの良さというものも忘れたくないと思うのでこざいます。若いつもりでおりましてもやはり年寄りなのでしょうね。
特にピックルスだけは、自分の手で漬けなければ気が済みません。お店で売っているピックルスも「あの可愛らしい瓶だけは欲しいのだけれど」と、よくそんなことを言っては笑われます。ピックルスはお家でも本当に簡単においしく作ることができますので、ぜひお試し下さい。

 作り方でございますが、漬け込むお野菜はきゅうりだけとは限りません。人参、小玉ねぎ(或いは普通の玉ねぎを八等分したもの)、セルリー、マッシュルーム、さっと茹でたカリフラワーや隠玄豆など、お好みのお野菜を御用意下さい。
お野菜は水気をよく拭き取っておきましょう。また色々なお野菜を混ぜて作ったピックルスは見た目にも楽しく、なかなかおしいものでございます。
 香辛料といたしましても、黒胡椒の粒、クローヴ、赤唐辛子、にんにく、しょうがのスライス、月桂樹の葉などを少しずつ混ぜたものを使います。近頃ではスーパーマーケットで、これらを適当にミックスした「ピックリング・スパイス」というものも売られています。(ただし市販の品には、スウィート用やサワー用、ロシア風など、ミックスの仕方が何種類かありますので、この点をご確認の上お求め下さいますよう。)

 お酢を三に対してお水を七の割合で混ぜたものに、たっぷりすぎる程たっぷりのお塩を溶かし込みます。これを煮立てたところへ先程の香辛料を入れ、一・二分したら火を止めます。

 この液がすっかり冷えるまで待って、お野菜を漬け込むのでございます。お野菜の種類にもよりますが、大体一日で食べられるくらいに漬かります。よく漬かったピックルスがお好きな方は、完全に中の水気を拭き取ったパッチン止めの保存瓶に入れて置けば、ずっと長くもたせることもできます。(この場合には、お酢を使ってあります関係上、ふたにさびが出てしまうような瓶は不向きです)

 わたしくがこのピックルスの作り方を覚えましたのは、もうずっと昔、娘時代のことでございます。あれはちょうど兄が婚約をした夏のことでした。兄の婚約者ミス・マーガレット・スプリングフィールドの御両親から、週末を一緒にロング・アイランドの別荘で過ごしましょうというお誘いがございました。一人では気遅れがしたからでしょうか、兄はわたくしも一緒にと誘ってくれました。

 当時としてはぜいたくだったプールと、手入れの行き届いたお庭のある別荘は、沢山のお知り合いや親戚の方が遊びにみえていました。兄の婚約者は別といたしまして、わたくしがそれ以前にちらっとでもお目にかかる機会がありましたのは、絵の好きな妹さんのミス・デイジー・スプリングフィールドおひとりだけでした。業界では第一人者として知られるお父様は、まわりの人々を楽しませるお話上手な方でした。新聞や雑誌ではお帽子姿の写真しか拝見したことがありませんでしたが、失礼ながらおつむが少し薄くなっていらっしゃるという噂は本当だわなどと思ったりしたものでした。お母様のスプリング・フィールド夫人は、高い声でいつも何かしら口ずさんでおられるような陽気な方で、淡いピンクのドレスが良くお似合いでした。

ロングアイランド滞在中は全て御自分でお作りになるという夫人のお料理は大変おいしく、わたくし達は本当にたっぷりとごちそうになりました。中でも色々なお野菜をミックスしたピックルスが、夏にぴったりでさわやかにおいしく思われましたので、食いしん坊のわたくしは早速その秘訣を夫人から教えていただいたという訳なのでございます。この時までわたくしは、ピックルスと申しますと、祖母から伝わるとても酸っぱいきゅうりのお漬け物以外には存じていませんでした。(それはそれなりに結構ではございましたけれども。)
スプリングフィールド夫人から伺ったばっかりのピックルスの作り方を、忘れないうちにと思ってメモしておりましたわたくしの所へ、兄がやってきて耳打ちをしました。耳打ちというよりも舌打ちに近いと言ったほうがぴったりするくらい、あの時の兄は不機嫌でございました。「馴れ馴れし過ぎるぞ。」初めて正式なお招ばれでございましたから、兄は、わたくしにもっと温和しく上品に振舞わせたかったのでしょう。いつもは優しい兄なのですが……。わたくし、ちょっとむっといたしましたわ。だって、そうでございましょう。おいしいものを話題にすることは、初めてお会いした方と打ち解けるための効果的な方法のひとつでもあると、わたくしは現在でもそう思っております。確かにお上品とは言えないかもしれませんけれど、女性同士ドレスやら宝石やらを心の中で競い合ったりするよりはずっと率直で良ろしいのではないでしょうか。

 その後、大学を卒業して医師になりました兄は、ミス・マーガレット・スプリングフィールドと結婚いたしました。お料理上手のマギーと、おかげで昔よりだいぶ太った兄の間には、三人の子供がございます。

 

OSAMUGOODS STORYより「OSAMUGOODS BEDTIME STORIES」

ー あとがきより ー

マザーグースのうたをテーマに、OSAMU GOODSのキャラクター達が生まれてから、早くも十年近く(サイト編集部注:この本が出版された1984年時点で)たちました。

皆さんに可愛いがっていただいた彼らも、すこしずつ生長したようです。
このたびは、彼らのひとり一人を主人公にして、楽しい物語を書いてもらうことになりました。

たとえば、いつもへいの上から転落ばかりしていた、あのハンプティ・ダンプティは、安西水丸さんのハードボイルド・タッチによって颯爽たるダンディ(?)に変身し、いつも丘の上の井戸に水を汲みにいっていたジャックとジルは、鈴木海花さんの筆によって、ロマンチックなラブロマンス物語のヒーローとヒロインにしていただけました。
他のキャラクター達もそれぞれに、素晴らしいストーリーを演じることができて、さぞかし喜んでいるに違いありません。

この本を名付けて、オサムズ・マザーグースの「ベッドタイム・ストーリー」。あなたが、夜おやすみになる前に、ひとつづつお読み下さい。そして、その後に見るあなたの楽しい夢の中で、彼らも一緒に遊んだり話したりして、あなたの親友の仲間に加えられることを願っています。

おやすみなさい。

原田 治