OSAMUGOODS COMPANY

OSAMU'Sマザーグースのキャラクター達が、9編の楽しい物語の主人公になったスペシャルブック。
ファンなら誰もが枕元に置いていた本、『BEDTIME STORIES』をご紹介します。

● シチリア島のイルカの物語

林 真理子

P.091 - P.096

四月になったら、ママはあまり泣かなくなった。そのかわりしょっちゅう鼻歌を歌うようになった。ママの鼻歌ときたら、まったく一貫性がなく、詞もメロディーもその時々で違うくせに、テーマだけはいつもしっかりしているので嫌になっちゃう。

パパがもうじき帰ってくるわ
ちゃっちゃなイルカをおみやげに…
金色のイルカは坊やのために
私のためには千個の真珠
タラララララ……(あと不明)

「ねぇジョゼッペ聞いてちょうだい」
ママは僕を抱いていった。
「あんたのパパは約束したのよ、俺は世界一の船乗りになる、君のためにこの地球にあるものならすべて持ってきてくれるって……。真珠も?ってママは聞いたわ。もちろん千個箱詰めにしてプレゼントするよ、ってパパはいったの。イルカは?イルカ?パパは不思議そうな顔をした。イルカを毎日おみやげにちょうだい、私毎日あなたのためにバタ焼きにして、上等のお皿にのせてあげるわ。パパは大笑いしてママを抱きしめた。抱いたままママを牧師さんのところへ連れて行って、そのまま花嫁にしてしまった。
『今日中にこいつをカミさんにしてしまわなきゃ、明日の夕飯に大好物のイルカのバタ焼きがくえなくなってしまうんでね』ですって……。牧師さん目を白黒させてたわ」
ママはパパのことを話す時、いつもうっとりして、僕のことをつい締めつける。本当に息苦しくなって、僕の方が目を白黒させてしまった。僕は足をバタバタさせて、必死で抗議してやった。
「あらごめんなさい、苦しかったのね。でもこういう時なくものよ」
 あーあ、ママは何もわかっちゃいないんだ。僕がどんなにプライドが高い赤ん坊かってことを。人とのコニュにケーションに、泣くなんて手段使いたくないんだよ、僕は。

パパが帰ってくる日が近づくにつれて、今も台所もピカピカになった。カーテンも新しくなったし、クッションもふかふかのにとりかえられた。
それより一番きれいになったのがママで、小麦粉と卵を混ぜたのを毎晩塗って、ソバカスを消してしまった。そればかりじゃない、髪の毛を結いあげて、いかにもヒトヅマらしく見せようと努力している様子だ。
マチルダおばさんは、自慢のケーキを焼いてもってきてくれた。パパの大好物のミネストレは、今朝から鍋の中でぐつぐつとおいしそうに煮えている。
 港の方で汽笛が鳴った。船が着いた合図だ。ママは畳かけたシーツをほおり出して、ドアからとびだしていった。もちろん僕はベッドの中。抱いて一緒に父親を迎えよう、なんて気持ちはないのだ、あの人は。

そんな僕の不満も、10分しないうちに解消された。
僕はパパの髭もじゃの顔に何度も頬ずりされて、
「僕の最高の親友、かわいいジッゼッペ」
という言葉を何度も聞いた。
僕は嬉しくてたまらず、柄にもなくつい、そのぉ……オモラシをしてしまった……。
「いやねぇー、この子、パパが帰ってきたというのに」
気のせいかママのいい方には毒があって、おまけに僕はおしりを三つもたたかれてしまった。
僕は知性はママの倍はあると思うのだが、悲しいかな体の機能が頭脳についていかない。そこの弱みをつけこんで、パパの前で責めるなんて、僕はさっきからママにフンガイしてる、かなり。

 

OSAMUGOODS STORYより「OSAMUGOODS BEDTIME STORIES」

ー あとがきより ー

マザーグースのうたをテーマに、OSAMU GOODSのキャラクター達が生まれてから、早くも十年近く(サイト編集部注:この本が出版された1984年時点で)たちました。

皆さんに可愛いがっていただいた彼らも、すこしずつ生長したようです。
このたびは、彼らのひとり一人を主人公にして、楽しい物語を書いてもらうことになりました。

たとえば、いつもへいの上から転落ばかりしていた、あのハンプティ・ダンプティは、安西水丸さんのハードボイルド・タッチによって颯爽たるダンディ(?)に変身し、いつも丘の上の井戸に水を汲みにいっていたジャックとジルは、鈴木海花さんの筆によって、ロマンチックなラブロマンス物語のヒーローとヒロインにしていただけました。
他のキャラクター達もそれぞれに、素晴らしいストーリーを演じることができて、さぞかし喜んでいるに違いありません。

この本を名付けて、オサムズ・マザーグースの「ベッドタイム・ストーリー」。あなたが、夜おやすみになる前に、ひとつづつお読み下さい。そして、その後に見るあなたの楽しい夢の中で、彼らも一緒に遊んだり話したりして、あなたの親友の仲間に加えられることを願っています。

おやすみなさい。

原田 治