OSAMUGOODS COMPANY

OSAMU'Sマザーグースのキャラクター達が、9編の楽しい物語の主人公になったスペシャルブック。
ファンなら誰もが枕元に置いていた本、『BEDTIME STORIES』をご紹介します。

● 恋のソーング・マシーン

鈴木 海花

P193-197

「どなたか玄関にみえてるんだけど、あたし体中粉だらけなの、誰か代わりに出てちょうだい!」アボット夫人が廊下から叫んだ。新しいボーイフレンドとデイトの約束があるフランが「待たされるのも嫌いだけど、約束より十五分も早く来るなんて気がきかないわねぇ。」とブツブツ言いながら、ことさらゆっくりと階段を下りて行った。

「ちょっと、ちょっと、ジル、来てるのよ!下に、あの、あんたのあれ!!」フランが、あわてふためいてもどって来たかと思うと、両手を振り回しながらジルに言った。「ジャック・フラッシュが、あんたに会いたいって、来てるのよ!」

「やあ、いつかはエボニーがどうも。芝生、無事だったようで良かった。突然で悪いと思ったんだけど、つい隣だもんで散歩に行く前に寄ってみようと思ったんだ。」ジャックが言った。ジルは、「どうぞ、お入りになりません?」とだけ言うのが精一杯だった。夏の間にすっかり日に焼けたジャックは、遠くの南の島のエキゾチックなビーチボーイのようにたくましく見えた。

「実はぼく、優勝した君の取材を担当することになったんだ。優勝者が隣の人だって知って、びっくりしちゃったよ、ほんとにおめでとう。」フランの知らせをうけたアボット夫人が、髪をなでつけてにこやかに台所から出て来た。いつになっても、女学生のように好奇心が強いのだ。


「冷たいものでもいかがかしら?」紹介がすむとアボット夫人が愛想良く言った。
「せっかくですが、これから犬を連れて湖の方へ散歩に行くとこなんです。それでもしお許しを願えれば、取材の下準備と打ち合わせを兼ねて、ジルと一緒に行けたらと思うんですが……」
「ジル、早く二階へ行って着がえてらっしゃい!」フランが、ジルの背中を強く押して言った。

こうして二人並んで歩いてみると、遠くから見ていたよりもすっと背が高いんだわ、とジルは思った。ジャックは、皆がどんなことを知りたがるか、従ってジルについて何を取材したいかを逆に熱心に説明してくれた。
「写真入りの記事にしたいんだけど。できれば君が自分の部屋でデザインのスケッチをしたり、ミシンを踏んでいるとこなんかの。」
「もし良かったら、お父さんに撮ってもらうのはどうかしら?写真屋なの。」ジルは、娘の名誉を伝える記事に自分の写真をそえることができたら、どんなにアボット氏が喜んでくれることだとう、と思いながらジャックに行ってみた。

「願ってもないよ、実は部のカメラマンがひどい近眼でね、いつもピンボケの写真ばかりとるんで困ってるんだ。」二人共声を立てて笑った。
その時ジルは、歩道の反対側をサリー・フィールドが歩いて来るのに気づいた。彼女は二人を見てびっくりしたように一瞬立ち止まると、意味あり気に片手を上げてジルに合図をよこした。彼女に出会ったということは、この光景を写真にとって学校の掲示板にはり出したも同じことだわ、とジルは思った。

今まではサリーのやることが好きではなかったジルも、きょうは少しばかり得意で、彼女に出会ったのは幸運だったとさえ思った。

 

OSAMUGOODS STORYより「OSAMUGOODS BEDTIME STORIES」

ー あとがきより ー

マザーグースのうたをテーマに、OSAMU GOODSのキャラクター達が生まれてから、早くも十年近く(サイト編集部注:この本が出版された1984年時点で)たちました。

皆さんに可愛いがっていただいた彼らも、すこしずつ生長したようです。
このたびは、彼らのひとり一人を主人公にして、楽しい物語を書いてもらうことになりました。

たとえば、いつもへいの上から転落ばかりしていた、あのハンプティ・ダンプティは、安西水丸さんのハードボイルド・タッチによって颯爽たるダンディ(?)に変身し、いつも丘の上の井戸に水を汲みにいっていたジャックとジルは、鈴木海花さんの筆によって、ロマンチックなラブロマンス物語のヒーローとヒロインにしていただけました。
他のキャラクター達もそれぞれに、素晴らしいストーリーを演じることができて、さぞかし喜んでいるに違いありません。

この本を名付けて、オサムズ・マザーグースの「ベッドタイム・ストーリー」。あなたが、夜おやすみになる前に、ひとつづつお読み下さい。そして、その後に見るあなたの楽しい夢の中で、彼らも一緒に遊んだり話したりして、あなたの親友の仲間に加えられることを願っています。

おやすみなさい。

原田 治