OSAMUGOODS COMPANY

OSAMU'Sマザーグースのキャラクター達が、9編の楽しい物語の主人公になったスペシャルブック。
ファンなら誰もが枕元に置いていた本、『BEDTIME STORIES』をご紹介します。

● 恋のソーング・マシーン

鈴木 海花

P198-203

まだ九月も早いというのに、空は思いきり高く、湖を囲む木々も季節が変わったことを物語っている。ジャックはエボニーを解き放すと、お尻のポケットから小さな手帳を取り出して、草の上に腰を下ろした。ジルは、おずおずしながら彼に近すぎない位置に並んで坐った。どこを見ていればよいか分からず、こんな時にはいっそ眼なんかなければ気が楽なのに、と思った。
「服のデザインなんかは、どんな風に勉強してるの?」ジャックが聞いた。
「あ、あの勉強なんて……」しっかりして、度胸をすえるのよ、ジル・アボット。なにもデートしてるわけじゃないんだから……。
「特別な勉強なんて何もしてないの、ただ好きなだけ。チア・ガールのユニフォームってどこも決まりきってて個性が無いでしょ?今度は、SF映画で見た女の人のコスチュームからヒントを得たの。」
ジャックが手帳に書きこんだ。自分の行った事がそのまま活字になるのかと思うと、ジルは恐くなった。
もっと言葉を選んで話さなくちゃ……ああでも今はだめ、このままこうしてじっとしていられたら。ジャックに近い方の半身が緊張してコチコチになっているのが感じられた。目もひきつれてきつくなっているに違いない、と思うとジルはよけいにジャックの方を見ることが出来なくなってしまった。
仕方なく下を向いて爪をいじっていたが、これではいつも爪の間にアカをためている女の子がせっせと掃除を始めたみたいに見えるんじゃないか、と考えて急に両手を引っこめてお尻の下に敷いてしまった。
頬がカッカとほてったり、青ざめたりを交互にくり返しているのが自分でも分かった。
ジャックがそれに気づいたのか「君もしかして、気分が悪いんじゃない?急に引っぱり出しちゃってごめんよ。」と言った。
ジルは、いいえ大丈夫、ちがうの、と言った。
「どっちみち記事は次の週末までに仕上がればいいんだ。君のお父さんが写真をとるのに都合のいい日を教えてくれたら、その時改めてインタビューすることにしよう。」そう言うとジャックは立ち上がって口笛を吹き、エボニーを呼んだ。

水曜の夕方に、撮影とインタビューが行われた。あたしも見に行っていいでしょう?とベッキーまでが押しかけて来て、家中てんやわんやだった。
ジャックが帰って行った後でジルは、もみくちゃになったような気がした。これで終わらせちゃダメ!―――とうとう一度もジャックと二人きりになれなかったので、家のみんなをうらみながらジルは思った。その夜、ジャックの部屋の窓には、遅くまで灯がついていた。

次の日から六日間降り続いた雨は、金星では年がら年じゅう雨が降っていてそのために地球から行った宇宙飛行士が死んでしまうという。いつか読んだSF小説をジルに思い出させた。もっと親しくなるために湖でジャックに「偶然会う」計画もこれでおじゃんだった。
時々、雨のカーテンの向こうのジャックの部屋の窓をのぞいてみたが、何故か一度も彼の姿を見かけることが無かった。金曜に出来あがった写真を新聞部の部屋に届けた時も、ジャックは居なかった。
仕方ないわ、彼にとってはあたしは単なる取材対象にすぎなかったんだし、いくら隣に住んでいたって、家どうしのお付き合いも無いんじゃ……汁はジャックに会えないことで、コンテストに優勝した喜びまでが、少しづつ色あせていくのを感じた。

しかし、新聞が発行されるとジルはちょっとした話題の人になった。『我らが学園のデザイナー』と題されたその記事は、ジルが今まで自分で気づかなかったような、彼女の中の創造性に満ちたナイーブな一面を生々と伝えていた。
驚いたことには、今まであいさつも交わしたことの無かった華やかなグループの女の子たちから、誕生日パーティーやピクニックに誘われた。更に、ルーディというロマンチックな顔立ちの悪名高い三年生からはデートを申し込まれた。
そして、以前にはジルなどに目もくれなかったレティシア・モロウが、廊下ですれちがうたびに、鋭く険しい視線を送ってくるようになったのに気づいた。

 

OSAMUGOODS STORYより「OSAMUGOODS BEDTIME STORIES」

ー あとがきより ー

マザーグースのうたをテーマに、OSAMU GOODSのキャラクター達が生まれてから、早くも十年近く(サイト編集部注:この本が出版された1984年時点で)たちました。

皆さんに可愛いがっていただいた彼らも、すこしずつ生長したようです。
このたびは、彼らのひとり一人を主人公にして、楽しい物語を書いてもらうことになりました。

たとえば、いつもへいの上から転落ばかりしていた、あのハンプティ・ダンプティは、安西水丸さんのハードボイルド・タッチによって颯爽たるダンディ(?)に変身し、いつも丘の上の井戸に水を汲みにいっていたジャックとジルは、鈴木海花さんの筆によって、ロマンチックなラブロマンス物語のヒーローとヒロインにしていただけました。
他のキャラクター達もそれぞれに、素晴らしいストーリーを演じることができて、さぞかし喜んでいるに違いありません。

この本を名付けて、オサムズ・マザーグースの「ベッドタイム・ストーリー」。あなたが、夜おやすみになる前に、ひとつづつお読み下さい。そして、その後に見るあなたの楽しい夢の中で、彼らも一緒に遊んだり話したりして、あなたの親友の仲間に加えられることを願っています。

おやすみなさい。

原田 治