OSAMUGOODS COMPANY

OSAMU'Sマザーグースのキャラクター達が、9編の楽しい物語の主人公になったスペシャルブック。
ファンなら誰もが枕元に置いていた本、『BEDTIME STORIES』をご紹介します。

● 恋のソーング・マシーン

鈴木 海花

P.173-179

こんな風だったから、ジルがジャックのことを知るようになったのは、彼が高校新聞の記者として活躍をはじめて、みんなの話題にのぼるようになってからだった。親友のベッキーが教えてくれるまで、ジムは彼が隣に住んでいるということさえ知らなかったのだ。

ジャックがジルの心をすっかりとりこにしてしまったのは、去年のクリスマスの前の、ジルの十四才の誕生日のことだった。

フランの贈ってくれた赤いスウェーターのサイズが大きすぎて、町の用品店まで取り替えに行った帰り道、家の前の大きなかしの木に、七色の豆電球を飾りつけているジャックを見かけたのだった。チカチカと豆電球が点滅するたびに、ちょっと寂し気なジャックの横顔が、夕闇の中に写し出された。まるでお芝居の一場面のようだ、とジルは思った。

それからというもの、ジルは学校新聞に隅から隅まで目を通すようになった。
特にJ・Fと署名のある記事は赤鉛筆で囲って、くり返し読んだ。それは、学校で一番嫌われ者のウェルティ先生への、ウィットとユーモアに富むインタビュー記事であったり、誰の心にもなつかしい思い出をよみがえらせる、子供の頃のハローウィンの思い出をつづったエッセイであったりした。

しかし、ジャックのまわりには、すでに上級生の女の子たちが群がっていて、ジルにできることといったら、家の窓から彼の姿をじっと見つめることくらいだった。

今、ベッドに寝ころがりながら、今日の午後見たジャックに関する、新しいこまごまとした発見を復習してみるのは楽しかった。

庭師のベンじいさんを手伝って草むしりをしていたやさしいジャック、真新しいバスケット・シューズ、たてつづけに二本も飲みほした、ダッズのルートビア、ポータブル電蓄からくり返し流れていた、リッキー・ネルソンの“プア・リトル・フール”……

ジルが物思いにふけっていると突然、弟のビリーが、父親のアボット氏のシャツをうしろ前に着て、皮のベルトを振りまわしながら、部屋に飛びこんで来た。

「お姉ちゃん、このシャツの袖、後でゆわいてよ、そいでその上から、ベルトで両腕をきつくしめるんだ。」
「ビリーったら、やめときなさい、ママにしかられるわよ。見つかったらもう映画につれていってもらえないから。」ビリーは先週見た『魔術師フーディーニ』の伝記映画に夢中なのだ。
「“私はフーディーニ、どんな拘束衣からもトリック無しで脱げ出てこらんにいれます”ねえ、コウソクイって、なに?」ビリーが、ジルの忠告を全く無視して言った。

あたしも十歳の頃は、こんな風だったっけ。カーニヴァルの見世物小屋やオバケ屋敷、鏡の部屋なんかに夢中になっていたっけ……。
「これっきりよ、お母さんには内しょよ。どうせぬけられっこないわ、お父さんのシャツを破くだけよ。」ジルはしぶしぶビリーの言うとうりにしてやった。
「あ、さっき母さんが、お姉ちゃんのこと呼んでたよ、クッキーをつくるの手伝って欲しいのに、どこにいるのかしら?って。気嫌悪かったぜ。」


アボット夫人は、クリーム色に統一したキッチンユニットの前で、グレーのさっぱりしたワンピースに、赤いエプロンをしめて、メレンゲをつくるのに大忙しの最中だった。

「さっき呼んだのが、聞こえなかったの、ジル?婦人会のバザーのために、クッキーやブラウニーズを沢山こしらえるから手伝ってねって、今朝言ったでしょう?そんなところにつっ立って、何をニタニタしてるのよ、ヘンな子ね。」
ジルは戸口に立って、明るい台所を見わたした。

「クリーム色とグレーと赤、とても色ぐあいがきれいだなって、みとれてたの。このままレディス・ジャーナルのリノリューム・タイルの広告ページに載っても、おかしくないわよ。」
ジルはそう言って、泡立て器を受け取ると、アボット夫人の表情が、さっきよりもだいぶやわらいだのを見てとった、――まったくフランと母さんは、共通点が多いんだわ、ほめると単純に気分を直しちゃうし、ずい分軽薄そうに見えるけど、やるべきことはちゃんとやっている。自分が何を欲しいか知ってて、ためらわずにそれに向かって行けるんだわ。あたしは空想ばかりがズンズン先にふくらんで……。

「お父さんは?お庭にいるの?」今度はブラウニーズに入れる、ピーカンの実をきざみながら、ジルがきいた。
「それがね、ウィンチェスターさんと、ゴットさんが今朝、こーんな大きな鱒を釣ったんですって。それで料理しちゃう前に記念撮影したいと言って来たんで、スタジオに行ったの。せっかくの日曜だっていうのにねぇ。」

ジルの父親のアボット氏は、自宅から2キロ程離れた町のメイン・ストリートに、おじいさんの代から続く写真スタジオを開いてる。手軽にコダックを持ち歩けるようになった最近でも、人生の様々な記念日――大きいものも小さいものも――には、アボットさんにちゃんとした写真を撮ってもらいたい、という町の人々がやってくるので、けっこう繁盛しているのだった。

 

OSAMUGOODS STORYより「OSAMUGOODS BEDTIME STORIES」

ー あとがきより ー

マザーグースのうたをテーマに、OSAMU GOODSのキャラクター達が生まれてから、早くも十年近く(サイト編集部注:この本が出版された1984年時点で)たちました。

皆さんに可愛いがっていただいた彼らも、すこしずつ生長したようです。
このたびは、彼らのひとり一人を主人公にして、楽しい物語を書いてもらうことになりました。

たとえば、いつもへいの上から転落ばかりしていた、あのハンプティ・ダンプティは、安西水丸さんのハードボイルド・タッチによって颯爽たるダンディ(?)に変身し、いつも丘の上の井戸に水を汲みにいっていたジャックとジルは、鈴木海花さんの筆によって、ロマンチックなラブロマンス物語のヒーローとヒロインにしていただけました。
他のキャラクター達もそれぞれに、素晴らしいストーリーを演じることができて、さぞかし喜んでいるに違いありません。

この本を名付けて、オサムズ・マザーグースの「ベッドタイム・ストーリー」。あなたが、夜おやすみになる前に、ひとつづつお読み下さい。そして、その後に見るあなたの楽しい夢の中で、彼らも一緒に遊んだり話したりして、あなたの親友の仲間に加えられることを願っています。

おやすみなさい。

原田 治