OSAMUGOODS COMPANY

OSAMU'Sマザーグースのキャラクター達が、9編の楽しい物語の主人公になったスペシャルブック。
ファンなら誰もが枕元に置いていた本、『BEDTIME STORIES』をご紹介します。

● 名探偵パンプティ・ダンプティ登場
  シュガー・ドーナツ殺人事件

 安西 水丸

P.232-238

ハンプティ・ダンプティ探偵事務所。名探偵はまだベットの中だ。今日は相棒のサルがやってくる。サルこと、カッカ・サルバドーレはボクサーくずれのシシリアン。気はやさしくて力持ちといったところが並はずれているのがこの男の欠点。ついでだが、かなりの色男であることをつけ加えておく。

コーヒーをすすり、パイプをふかしていると、ドアをたたき割るようにしてサルがやってきた。
「ドーナツ屋の娘が消えたって、なんか甘ったるくなりそうだな」
入ってくるなり、サルは甘ったるそうな口つきをする。
「コーヒーどうだ」とパンプティ。
「まず、その娘が消えたっていう日の近く、娘とベタついてたっていう小僧から洗ってみるか」
サルは窓に向かってカンツォーネをうなり出す。この男、音楽といったらカンツォーネしかないと思っている。やたら両手をひろげ、大声を張りあげる。

そんなところへ、スミス氏の秘書、マーガレットが、色っぽい肢体をくねらせてはいってきた。
「すてきなお声よ」
なんて言ったもんだから大へん。サルの声はますます手におえなくなる。彼女はハンド・バックから小切手を出す。一〇、〇〇〇ドル。前渡金ということだ。
「スミス社長にご用の時はわたくしに」
彼女は会社の電話番号をメモ用紙に書く。
「あのう、近々時間つくれませんか、ちょっと気にいった店があって」とハンプティ。
マーガレットはOKと言ったようなウインクをすると、カツカツと靴音を遠ざける。サルはハンプティのベット・ルームで、まだカンツォーネをうなっている。

聞きこみはメリーのボーイ・フレンド、ポールからはじまった。ポール・ランカー。彼はこの秋からニューヨークの大学に籍をおいている。メリーとは、ハイスクールの先輩になる。メリーが、ミス・ハイスクールに選ばれた時、彼は彼女のパレードするオープン・カーの先導をオートバイでやった。そしてその後二人は度々デートをするようになった。メリーに想いをよせていた男どもはかなりいたので、ねたみの目がポールに集中したのは当然だ。メリーが失踪した日、二人は60ストリート、レキシントン通り(アベニュー)でウッディ・アレンの映画を観た。その後セントラル・パークを散歩。それからコーヒーを飲んだ。日暮れ時、プラザ・ホテルの角で別れた。
「メリーちゃんホントにどうしちゃったんだろう」
突然、探偵の訪問を受けたポールは大あわてだ。それでも心配そうな顔で、当時の模様をアレコレと話してくれる。メリーが失踪した翌朝早く、ポールは大学のテニス部の合宿でコネチカットのテニス・コートに参加している。
「たぶんシロだな」
ハンプティがポールと別れると、ちょうどランチ・タイムになった。46ストリート、6通り(スイックスアベニュー)のチャイニーズ・レストランにはいる。この時刻のレストランはどこもいっぱいだ。
「ハーイ、ハンプティ」
呼ばれてふりかえると、ガール・フレンドのジェーンがいる。会社の上役らしき男といっしょだ。
「紹介するわ、こちら、ダン・オースチン。ドーナツ会社のエリートさんよ」ときた。
ドーナツと聞いてハンプティもググッとくる。
「もしかして、アンクル・スミスの」
「そうよくご存じね、アンクル・スミスのジュガー・ドーナツをごひいきに」
ジェーンはおどけてみせる。それにしてもジューンとは久しぶりだ。不思議と仕事にありつけるとジェーンとこんな出合いになる。美しいマロン・ブラウンの髪を肩までのばしている。このドーナツ屋のエリートとはどんな関係なんだ。などと思っていると、ワイングラスの老酒が足の方からジワーッときた。いつだったか、いつだったか、これに足をとられて階段からころがり落ちたことがある。気をつけろハンプティ・ダンプティ。酔いざましにはバドワイザーがいい。

 

OSAMUGOODS STORYより「OSAMUGOODS BEDTIME STORIES」

ー あとがきより ー

マザーグースのうたをテーマに、OSAMU GOODSのキャラクター達が生まれてから、早くも十年近く(サイト編集部注:この本が出版された1984年時点で)たちました。

皆さんに可愛いがっていただいた彼らも、すこしずつ生長したようです。
このたびは、彼らのひとり一人を主人公にして、楽しい物語を書いてもらうことになりました。

たとえば、いつもへいの上から転落ばかりしていた、あのハンプティ・ダンプティは、安西水丸さんのハードボイルド・タッチによって颯爽たるダンディ(?)に変身し、いつも丘の上の井戸に水を汲みにいっていたジャックとジルは、鈴木海花さんの筆によって、ロマンチックなラブロマンス物語のヒーローとヒロインにしていただけました。
他のキャラクター達もそれぞれに、素晴らしいストーリーを演じることができて、さぞかし喜んでいるに違いありません。

この本を名付けて、オサムズ・マザーグースの「ベッドタイム・ストーリー」。あなたが、夜おやすみになる前に、ひとつづつお読み下さい。そして、その後に見るあなたの楽しい夢の中で、彼らも一緒に遊んだり話したりして、あなたの親友の仲間に加えられることを願っています。

おやすみなさい。

原田 治