OSAMUGOODS COMPANY

OSAMU'Sマザーグースのキャラクター達が、9編の楽しい物語の主人公になったスペシャルブック。
ファンなら誰もが枕元に置いていた本、『BEDTIME STORIES』をご紹介します。

アワ・スノーマン クリスマスには帰る

 鈴木 海花

P.328-331

〈1〉
「きょうだな。」男の子が目を輝かして、きっぱりと言います。
女の子はそれを聞くと、もう一刻も待てないという風に、ベッドから飛び出して着替えを始めます。

窓の外で、刺すような朝日に暖められた梢の上の雪がきしんで、ドサッと地面に落ちる音がします。
台所では、すでにコーヒー沸かしが盛大に湯気を上げ、ベーコンが透き通った脂を出しながらジュウジュウ
いい、格子模様の押し型の中では、こんがりときつね色のワッフルが香ばしいにおいを放っています。

二人はテーブルにつきますが、心ここに有らずといった様子で、そそくさと朝食をつめこみます。
「よくかむのよ。」お母さんが、見かねて注意します。
「はい。」二人はちょっとの間、食べるスピードを落としますが、またいつの間にか、
ワッフルを口いっぱいほおばっています。
「何の騒ぎが始まるんかね?」お父さんが新聞を広げながらききます。
「きょうなのよ。」女の子が答えます。
「何が?」お母さんが、お父さんから新聞を取り上げながらききます。
「きょうが、SNOWMANをつくるのに最適の日なんだ。」男の子が、ミルクの最後の一てきを飲みほして
テーブルを離れながら言います。
「待ってよ。」女の子もあとに続きます。

毎年こうなのです。
何回か雪が降り、それが余り深くならない十二月もまだ早い頃、二人は待ちかまえたように、
SNOWMANをつくりにかかります。早過ぎても、遅すぎてもいけません。
「ぼくらのSNOWMANには、ひとつぶの泥が混じってもいけないんだ。」と男の子が言います。


二人はシャベルやバケツを持って、なだらかな丘の斜面へと続いている家の裏手にやって来ます。
天気は良いのですが、空気がツンと冷えているので、日影になっている裏庭では、
一つぶの雪もとけていません。

まず男の子が、ポケットから良くみがきこまれた一ドル銀貨を取り出します。手袋をはずした手で、
きのうの午後降ったばかりのやわらかい雪をすくいあげ、その中に銀貨を埋めて、雪の玉をつくります。
さてこれで、SNOWMANの一番シンのできあがりです。
しばらくの間は、見る間に大きくふくらんでゆく雪の玉をただころがしていけばいいのです。

次に、あまり大きくなる前に、家の表側へ持って行って、置く位置を決めます。
あれこれ迷った末に、結局いつものように、低い生垣のそばの郵便ポストのすぐ脇に決めます。

今度は、洗いたてのブリキのバケツに、泥が混じらないように注意しながら、地面スレスレまでシャベルで
掘り返して雪を集めては、裏庭から運びます。
バケツが小さいので、二人は何回も何回も家のまわりを、行ったり来たりしなければなりません。
姉妹には、帽子も、マフラーも、外套も脱いで、体が汗ばんで来ます。

でもお昼までには、シミひとつない真白な雪だけでつくられた、六フィート近くある
立派なSNOWMANの土台が、出来上がります。

ー あとがきより ー

マザーグースのうたをテーマに、OSAMU GOODSのキャラクター達が生まれてから、早くも十年近く(サイト編集部注:この本が出版された1984年時点で)たちました。

皆さんに可愛いがっていただいた彼らも、すこしずつ生長したようです。
このたびは、彼らのひとり一人を主人公にして、楽しい物語を書いてもらうことになりました。

たとえば、いつもへいの上から転落ばかりしていた、あのハンプティ・ダンプティは、安西水丸さんのハードボイルド・タッチによって颯爽たるダンディ(?)に変身し、いつも丘の上の井戸に水を汲みにいっていたジャックとジルは、鈴木海花さんの筆によって、ロマンチックなラブロマンス物語のヒーローとヒロインにしていただけました。
他のキャラクター達もそれぞれに、素晴らしいストーリーを演じることができて、さぞかし喜んでいるに違いありません。

この本を名付けて、オサムズ・マザーグースの「ベッドタイム・ストーリー」。あなたが、夜おやすみになる前に、ひとつづつお読み下さい。そして、その後に見るあなたの楽しい夢の中で、彼らも一緒に遊んだり話したりして、あなたの親友の仲間に加えられることを願っています。

おやすみなさい。

原田 治