OSAMUGOODS COMPANY

OSAMU'Sマザーグースのキャラクター達が、9編の楽しい物語の主人公になったスペシャルブック。
ファンなら誰もが枕元に置いていた本、『BEDTIME STORIES』をご紹介します。

バースディ・プレゼント

 佐々木 克彦

P.318-325

いろいろと悩んでいるうちに数週間が過ぎた。その間、マイクには逢うことは逢っていたが、
いつもキャロラインと一緒の時だったので、彼女は前と変わりなく、そ知らぬふりで通していた。
そんな、ある日、キャロラインが常にもまして陽気に話しかけてきた。

「今日ね。マイクがわたしの部屋に遊びに来てくれるんですって。夕食のあとにね、
お茶を飲みにくるんですって。わたし、だから、今から、クッキーを焼かなけりゃ。パティ手伝って。」

パティは言われるままに一緒になって、クッキーを焼いたが、心の中では、何か彼女に済まないことをしているようで気が気ではなかった。だって、今夜、マイクが来るのは、わたし達のことを打ち明けにくるのだ。
あんなにマイクを愛しているのに、可哀想なキャロライン。

「どうしよう、どうしよう」と悩んでいるうちにも夜はきます。
「いらっしゃい、マイク、さ、どうぞ、いま、お茶を入れるわね。
クッキーでもつまんでて、あなたの好きなパティが焼いたのよ。」

キャロラインは変な言い方をするなあとパティは不思議に思った。
「あなたの好きなパティ…」ですって。
「あなたが好きなキャロライン……」てわたしの前でいうのが恥ずかしいから、
あんなもってまわった言い方をするのかしら。

「お待ちどうさま」
キャロラインが紅茶のポットを右手に、左手にもうひとつ大きな白い箱を持ってキッチンから出てきた。
「キャロライン、その大きな箱は何?」
不思議に思って、パティは聞いてみた。
マイクは、訳がわからん、といった風に、ふたりのやりとりを見ているだけ。

「開けてびっくり、ホラ、バースデイケイキ!!」
「ワッ凄い、そうなの、今日はあなたのバースデイなの、キャロライン。」
ニヤリと笑ってキャロラインは言った。

「パティたら、やあね、自分のバースデイも憶えてないの。今日はあなたのじゃないの。」
「あっ、そうだ。そうだったわ。忘れていたわ。そうよ。
今日は、あたしの誕生日だわ、わたし、考え事があったんで、すっかり忘れていたわ。」
「ね。でしょ、だから今日は、わざわざあなたの好きなマイクを呼んだのよ。」

またキャロラインが変なことを言った。

「あなたの好きなマイク…だって。」
「で、今日は、あなたに素晴らしいプレゼントをあげたいと思って……」
「ちょっと待ってよ、キャロライン。今日はさっきから変よ。
マイクに『あなたが好きなパティ』とか、今は今で『あなたの好きなマイク』とか……。
マイクが好きなのはキャロライン、あなたでしょ。」

「いいの、いいの、もう解ってるんだから。わたし、直感だけは自信あるんだ。とか言ってね。
ホントはわたし、マイクからの手紙、読んじゃったんだ。この間ね、ドアに差し込んであったアレ。
マイクからだったからわたしに来たんだと思って読んでいたら、飛んだ早トチリ。
で、あなたに気づかれないように、また、もとに戻しておいたの。

だから、いいの、いいの。わたしはもうあきらめたから。気分転換の速いほうだからね、わたしって。
それでね、今日のわたしの、あなたへのバースデイ・プレゼントというのがね、
誰であろう、このマイクなのです。ゴメンナサイ、マイク。あなたを、何か物を扱うみたいで悪いけど。
わたし、あなたを快く、わたしの友達、パティに差しあげたいの。」

「キャロライン!!」
パティとマイクは彼女を見つめた。

「いいの、いいの。
さ、ゴタゴタが済んだら、おふたりは、さっさと夜の河畔にでも散歩に行った、行った。」
キャロラインはふたりの肩を押して、ドアの外へ追い出した。

「キャロライン!!」
もう一度、ふたりは彼女の名前を呼んだ。
と同時にドアの「パタン」と閉まる音がして、すぐ彼女の明るい歌声が窓辺から流れだした。
“オー・スザンナ”だった。

彼女は、大好きなその歌をせい一杯、元気な声で歌い続けた。
時々、オー・スザンナのところをオー・パティと替えて歌うという人の良さも見せながら…。

ニューオルリインズの街の夜更け。キャロラインの歌声がいつまでもいつまでも流れていた。
やがて朝がきて、また毎日毎日、同じ「毎日」が始まった。
キャーキャーワイワイの授業。明るく楽しくはずむキャンパス生活ーーー。
でもあの日以来、彼女のピローケースが決して乾いたことがない、ということは誰も知らない。

もうひとりのあの子のピローケースは、もう決して濡れることがないというのに…。

ー あとがきより ー

マザーグースのうたをテーマに、OSAMU GOODSのキャラクター達が生まれてから、早くも十年近く(サイト編集部注:この本が出版された1984年時点で)たちました。

皆さんに可愛いがっていただいた彼らも、すこしずつ生長したようです。
このたびは、彼らのひとり一人を主人公にして、楽しい物語を書いてもらうことになりました。

たとえば、いつもへいの上から転落ばかりしていた、あのハンプティ・ダンプティは、安西水丸さんのハードボイルド・タッチによって颯爽たるダンディ(?)に変身し、いつも丘の上の井戸に水を汲みにいっていたジャックとジルは、鈴木海花さんの筆によって、ロマンチックなラブロマンス物語のヒーローとヒロインにしていただけました。
他のキャラクター達もそれぞれに、素晴らしいストーリーを演じることができて、さぞかし喜んでいるに違いありません。

この本を名付けて、オサムズ・マザーグースの「ベッドタイム・ストーリー」。あなたが、夜おやすみになる前に、ひとつづつお読み下さい。そして、その後に見るあなたの楽しい夢の中で、彼らも一緒に遊んだり話したりして、あなたの親友の仲間に加えられることを願っています。

おやすみなさい。

原田 治