OSAMUGOODS COMPANY

OSAMU'Sマザーグースのキャラクター達が、9編の楽しい物語の主人公になったスペシャルブック。
ファンなら誰もが枕元に置いていた本、『BEDTIME STORIES』をご紹介します。

● 名探偵パンプティ・ダンプティ登場
  シュガー・ドーナツ殺人事件

 安西 水丸

P.250-257

マジソン通り(アベニュー)、45ストリート。このあたりには、IVYのメッカ、ブルックス・ブラザースや
ポール・スチュアートがある。雪が上がってランチ・タイム。
ドッと人の波がコーヒー・ショップや、レストランにおしかける。
この通りに、ドッカリと腰をすえたように建つ、ゴールデン・パシフィックBANKビルディング六十階建て。
その十階から十五階にかけて、ドーナツの名門、アンクル・スミスの本社がある。
十一階は重役、というよりはトップへの最短コースである販売部長室。
マーガレットは、ソッとそのドアを閉めるとあわてて廊下の角をまがった。
左脇にかかえたノートの間には、たった今、部長室から持ち出したテープがはさまっている。
形のいい胸が、白いブラウスの下で急テンポに動く。

その頃ハンプティ・ダンプティは、自殺したジェーンのアパートにいた。
同行しているのはドンマイ刑事。アパートの管理人が渋い顔でついている。
「旦那方、早いとこ整理ねがいますよ、近頃部屋不足で困っているんで」
「ムダ口叩くと窓からほうり出すぞ」
ドンマイ刑事。この男もかなり乱暴なセリフを吐く。窓から中庭が見える。
コト、コトと音がして、非常階段でリスが遊んでいる。
「なんだ、あのリスの持ってるのは」
ハンプティ・ダンプティは、ふとリスの持っている白い雪の固りのようなものに目をとめる。
「雪だるまでも作ってんだろうリス公」
と、ドンマイ刑事。
「ちょっと窓を開けてくれ」
ハンプティはドンマイ刑事の開けた窓から非常階段に出る。
「気をつけろよ」
ドンマイ刑事の声がおわるより早く、足をすべらせたハンプティ・ダンプティは
階段を雪だるまになってころがり落ちた。
「だいじょうぶか、ハンプティ」
「おーいたっ、いてて」
起きあがった尻の下に妙なものがくっついている。それはさっきリスの握っていたモノだ。
つぶれてはいるが、それはたしかにシュガー・ドーナツ。

ニューヨーク科学捜査研究所。
ここの鑑識課はトウキョウ、パリとならんで、有能な研究員が手ぐすねひいている。
リスから手に入れたシュガー・ドーナツからは、大量のヘロインが検出された。

雲がマンハッタン上空をおおう。雪がくる。
帰宅を急ぐ人の波が、グランド・セントラル駅(ステイション)に吸いこまれる。
クリスマス用のモミの小枝を脇にかかえ肩をよせあって歩く恋人たち。
サルはそんな光景を横目に駅のはずれのコーヒー・ショップでマーガレットを待っている。
遅い。もうとっくに時間がすぎている。なにか胸さわぎがする。シシリアンの血がさわぐ。
狼は血の臭いをかぎつける。
「親父、ちょっと出てくる。マブイ女が俺を訪ねてきたら、すぐに帰ると行ってくれ」
サルはコーヒーショップを出るとマーガレットの車のあるガレージに走る。

ガレージは灯がボンヤリとゆれ、車が五台ほど眠っている。黒い影がスーと動く。
ハッと目を細めるサル。赤いムスタング。その前にマーガレットが立っている。
「どうしたんだ、マーガレット」
駆けよろうとしたサルの横から、黒い鉛のような力がぶつかってきた。
ふいを突かれて、のめるようにサルは、車の前に立つマーガレットに抱きつく。これが良かった。
マーガレットは隠れるようにサルの後に立つ。
「後をつけられたのよ。一人ピストルを持ってるわ、全部で五人よ」
五人と聞いてサルはホッとする。左前方からおそった男は、パンチをはずされ、一発のボディでダウン。
横からマーガレットに抱きついた男も横から引きはがされるように投げとばされた。
男はマーガレットにしがみついていたので、はずみをくって彼女も大きくよろけた。ハイヒールが飛ぶ。
「乱暴よ、サル」
「そんなこと言ってられるか」
その時銃声。サルがはじけるように横に倒れる。
「車に乗れ、マーガレット」
サルの肩から血が流れている。マーガレットは車に乗る。エンジンの音。
「走れ、走るんだ」
サルの叫ぶ声が、ガレージにこだまする。アクセルをふんだ。
走りながらマーガレットはサルの声のする方のドアを開けた。飛びこんでくるサル。銃声二発。
「映画みたいだぜ」
肩の血をおさえてサルが笑う。

 

OSAMUGOODS STORYより「OSAMUGOODS BEDTIME STORIES」

ー あとがきより ー

マザーグースのうたをテーマに、OSAMU GOODSのキャラクター達が生まれてから、早くも十年近く(サイト編集部注:この本が出版された1984年時点で)たちました。

皆さんに可愛いがっていただいた彼らも、すこしずつ生長したようです。
このたびは、彼らのひとり一人を主人公にして、楽しい物語を書いてもらうことになりました。

たとえば、いつもへいの上から転落ばかりしていた、あのハンプティ・ダンプティは、安西水丸さんのハードボイルド・タッチによって颯爽たるダンディ(?)に変身し、いつも丘の上の井戸に水を汲みにいっていたジャックとジルは、鈴木海花さんの筆によって、ロマンチックなラブロマンス物語のヒーローとヒロインにしていただけました。
他のキャラクター達もそれぞれに、素晴らしいストーリーを演じることができて、さぞかし喜んでいるに違いありません。

この本を名付けて、オサムズ・マザーグースの「ベッドタイム・ストーリー」。あなたが、夜おやすみになる前に、ひとつづつお読み下さい。そして、その後に見るあなたの楽しい夢の中で、彼らも一緒に遊んだり話したりして、あなたの親友の仲間に加えられることを願っています。

おやすみなさい。

原田 治