OSAMUGOODS COMPANY

OSAMU'Sマザーグースのキャラクター達が、9編の楽しい物語の主人公になったスペシャルブック。
ファンなら誰もが枕元に置いていた本、『BEDTIME STORIES』をご紹介します。

● 名探偵パンプティ・ダンプティ登場
  シュガー・ドーナツ殺人事件

 安西 水丸

P.244-250

ジェーンはいい女だった。ハンプティは、彼女のことを想うと、いつも胸がドキドキしたもんだ。
ジェーンは薄い絹の下着一枚で、一人ぼっちで死んでいった。つい先日、チャイナ・レストランで会った時はあんなに明るい笑顔だった。何かある。ジェーンが薬(ヤク)に犯されていたなんて。
ハンプティには、彼女の自殺が、どうも怪しく思えてならない。チャイナ・レストランでいっしょにいた男、ドーナツ会社のエリート。たしか、ダン・オースチンとか言った。何かおかしい。メリーの失踪、ポール襲撃、シュガー・ドーナツ、ジェーンの自殺。ハンプティはハタと考えこむ。

雨は垂直にマンハッタンに落ちている。
「ジェーンはいい女だった」
ラジオで、シナトラが歌っている。♪ぼくはセンチになったよ。

クリスマスが近づいた。名探偵ハンプティ・ダンプティは相変ず、ガランとした探偵事務所の奥にあるベットの上で色気のない朝をむかえている。窓の外は雪。ベッドから手をのばしてテレビをひねる。まだ古い型の、モノクロテレビだ。画像があらわれるまでは、68秒かかる。ニュースが流れる。エルビス・プレスリー死す。プレスリーはシュガー・ドーナツによる肥満体をもてあましていたという。彼のハート・ブレイク・ホテルはよく口ずさんだもんだ。シュガー・ドーナツと聞いて、ハンプティの頭の中はモヤモヤと煙ってくる。
「スッキリせんな」
モッソリと起きあがろうとしたはずみに足がもつれてベッドから転がり落ちるハンプティ・ダンプティ。

外は雪、マンハッタンは銀世界だ。メリーはいったいどこへ消えてしまったのか。ハンプティ・ダンプティはボンヤリとパイプの煙をくゆらせている。そこへドアがノックされ、マーガレット、プティングがやって来た。
「しばらくね、ハンプティさん」
マーガレットは雪をはらうようにして厚手の黒のコートをぬぐ。グレーのタイトスカートに、エンジ色のセーター、首には白地に2センチほどのブルーのストライプのネッカチーフをゆるやかに巻いている。
「メリー嬢のことで何か情報でもはいったのかね」
と、ハンプティは探偵としてはヤボなセリフ。
「あら、それはこちらで尋ねたいことよ」
「頭いたいぜ、クリスマスも近いというのに」
マーガレットは紙袋から湯気の立っている紙コップを出す。コーヒーが入っている。
「いつかコーヒーでご機嫌損ねたでしょ。今日は暖いの持ってきたわ」
マーガレットはもう一つの小さなシュガー・ドーナツを出す。
「いかが」
「これだ、こいつが一番怪しいんだ」
キョトンとするマーガレット。彼女はまだジェーンの自殺についてはなにも知らない。
「ほんとうにもうすぐクリスマスね」
「ああ」
「いつもニューヨークのクリスマスはホワイト、楽しみだったわ、子供の頃から」
「生まれもニューヨークかい」
「ブルックリンよ」
「動物園の近くか」
「あらよくご存知ね」
「可愛かったんだろうな」
「あら?そんなら今は?」
「ああ、いい女だ」
ハンプディはパイプに火をのせる。煙が部屋の中にひろがっていく。
「ところで、そろそろ用件を言ってくれてもいいんじゃないか」
ハンプティは口から大きな煙の輪を吐く。マーガレット飲みかけたコーヒーの紙コップをテーブルの上におくとハンプティを見つめた。
「メリーちゃん生きてるわ」
「ん?」
ハンプティは思わず口からパイプを落としそうになる。
「聴いたのよ、メリーちゃんの声」
「どっ、どこで」
「販売部長の部屋よ」
「もしかして、そいつの名は、ダン、ダン・オースチン」
「どうして、どうしてそれをご存知なの」
今年はじめての大雪注意報が、ニューヨーク全域に流れた。

 

OSAMUGOODS STORYより「OSAMUGOODS BEDTIME STORIES」

ー あとがきより ー

マザーグースのうたをテーマに、OSAMU GOODSのキャラクター達が生まれてから、早くも十年近く(サイト編集部注:この本が出版された1984年時点で)たちました。

皆さんに可愛いがっていただいた彼らも、すこしずつ生長したようです。
このたびは、彼らのひとり一人を主人公にして、楽しい物語を書いてもらうことになりました。

たとえば、いつもへいの上から転落ばかりしていた、あのハンプティ・ダンプティは、安西水丸さんのハードボイルド・タッチによって颯爽たるダンディ(?)に変身し、いつも丘の上の井戸に水を汲みにいっていたジャックとジルは、鈴木海花さんの筆によって、ロマンチックなラブロマンス物語のヒーローとヒロインにしていただけました。
他のキャラクター達もそれぞれに、素晴らしいストーリーを演じることができて、さぞかし喜んでいるに違いありません。

この本を名付けて、オサムズ・マザーグースの「ベッドタイム・ストーリー」。あなたが、夜おやすみになる前に、ひとつづつお読み下さい。そして、その後に見るあなたの楽しい夢の中で、彼らも一緒に遊んだり話したりして、あなたの親友の仲間に加えられることを願っています。

おやすみなさい。

原田 治