上田_で、ちょっとね、見にくいかもしれないんですけど。原田さんのお仕事を紹介している雑誌で…シール、付録なんですけど雑誌の。(と言ってA3サイズのカラーコピーを見せる)【6】1980年の『Gals life』っていう主婦の友から出てた雑誌の付録で、ね。原田さんの絵はすぐ分かるんですけど。横に猫の絵が描いてある…それを私が、実は描いていたっていう(笑)原田さんと共演した一番最初の作品かな。
まぁ、その後一緒に仕事をしたことはなかったんだけれど、でも、思い出に残る仕事でしたね。その後パレットが始まるまでは、そんなに親しくはなかったんだけれども、褒められたことがあって。すごく嬉しかったのは覚えています。はい。
飯田_そうですね。原田さんは、大先輩なんですね。僕はあの、学校の先輩でもあり同じカントリーミュージックのクラブに在籍してたんで、そういうこともあって尊敬していたんですけれども。なかなかそんな、会える方ではなかった。で、パレットクラブを作った時に…今から21年前ですか。いきなり原田さんから電話があって「原田ですけれども。」「え?!」って。電話の主が原田治さん本人なんです。「パレットクラブっていうのをやるんだけど飯田さん、先生になってくれない?」って。嬉しくてさ。直接でしょ?初めてその時、イラストレーターとして認められたなって思った方なんですね。会えばもう…非常にこう…気さくな方でね。ソフトな方で。大人になった気がしましたけれども。赤さんは原田さんと同級生なんです、大学の時のね。学生の時から知っているんですけど。まずその辺りの、僕の知らない原田さん、10代?19歳くらい?
赤_自分は広告の方でイラストを描いていたもんだから。デザインセンターとか行って仕事とかやってて。彼みたいにエディトリアルの方で仕事をやったイラストレーターっていうのは、自分としてはとてもフレッシュで。だから原田くんの町歩きシリーズ【7】は傑作だなと思ったの。それからずっと、注目して見てるから、友達で。それでいろいろ会ってきたけど。まぁ一番最初は、強烈だったね。色もとても良いしね、彼。色がね、とにかくきれいなんだよね。それが原田くんの特徴な気がする。大学の時から、すごくもう…優秀だったからね。デッサン、上手くてね。自分とあまり変わらないくらのレベルだったからね。
飯田・ヒロ・上田_(笑)
会場_(笑)
飯田_自慢、入ってましたけどね(笑)でもね、原田さん、唯一『ぼくの美術ノート』で取り上げてるのは赤さんだけなんですよね。『鳥の形態図鑑』のことで、リアリティズムのイラストレーターっていうことで。赤さんだけ。イラストレーターでね。
赤_でもそれ、関係ないと思うよ(笑)
飯田_すごい尊敬しているし、認められてたんだなって、嫉妬してましたけどね(笑)
赤_うははは(笑)
飯田_(パレットクラブを)始めた時にも「赤勘兵衛知ってるか?」って。「すごいやつがいるんだ」と。
赤_もう、老人になってさ、勝手なことやってるだけだって、俺なんて(笑)
飯田_そんなこと聞いてないですけどね(笑)
ヒロ・上田_(笑)
会場_(笑)
飯田_まぁ、いいですけどね(笑)そんな話から段々良い話に…(笑)。パレットクラブの、この場所での展示ってことで、いろんな話が出てきちゃうと思うんだけど。そんなのを絞りこんでね、イラストレーターの方もいっぱい来てると思うし、それになりたいって方もいると思うのでね。ちょっと話が硬くなると思いますけどね、そういう思想もちょっと交えながら2時間、いきたいと思うんですけど。
ある雑誌で原田さんが2009年にですねインタビューを受けてて。それを読み返しててね。そこでいう原田さん自身のインタビューされてることがあるんですね。それに沿って、話を進めていきたいと思います。
飯田_まず、原田さんはOSAMU GOODSってことで、話が散々出ていました。「何で原田さんはOSAMU GOODSを作ったんですか?」って話の中で、デザインとイラストの関係を喋るんですね。もちろん僕たちの仕事にもデザイン的な感性が必要になってくる訳ですけども…ヒロさん、デザインとイラストの関係性ってどう考えられているんでしょう?
ヒロ_そうですね、僕はイラストレーターとしてデビューしつつ、まぁ最初、それで食べられなかったんで。デザインをやりながら、好きなイラストを描く、みたいな…ことをしてたんですね。で、だんだんイラストが売れ始めたんで、僕はデザインの方は止めました。でも、今また両方同じ位のバランスでやってはいるんですけども。僕にとってイラストレーションはずーっと遊びの延長でしかなくって、遊びながらお金もらってるっていうような感じですね。で、デザインの方は、こう…仕事をしてるっていうような感覚ではありますよね。ちょっとこう…なんだろう、イラストレーションに対して、あんまり良いアレではないかもしれないんですけど(笑)
なんかこう…絵を描くってことは、ずーっと子どもの頃からの延長のような感じなんで…その延長でお金もらってるって感覚ではありますね。
飯田_上田さんもね、雑誌の表紙から始まっていろいろと…ゲーム類など、自分の仕事とデザインの関わりをどう思われますか?
上田_私はほとんどデザインはしないで、素材として渡したものを、依頼主側の会社のデザイナーさんが製品に落とし込んでくれるんだけど、やっぱり気に入らないのはありますね。だから、原田さんみたいに自分の絵に合う好きなテイストで出来たら素敵だなぁと思いますね。私も猫グッズとか、文房具とか、雑貨みたいなのをやったことあるんですけど。やっぱり…なんだか気に入らないのね、自分としては。「絵はかわいいんだけど、この字、ヤダな」みたいな。多々あります。
それはね、今までも商品になった時に「なぜこの色、使うんだろう」って。それはあるけど、そういうのって、"売れる為の色じゃなきゃダメ"とか、"売れる為にはこの辺にこれがなくちゃ…"とか、いろんな要素が…。いろいろ言って「もうちょっと、こうした方がいいんじゃない?」って提案はしますけど。
なかなかそれが、全部、まるまる通るってことはほとんどないので。本当に自分の好きな世界をね、作ることが出来たら良いよねという風には思っています。
ヒロ_僕も同じですけども。イラストを渡して、上がってきたデザインを見るのは辛い。商売にならん!っかったりするけども…(笑)
上田_そうだよね。
ヒロ_そこに期待しなくなるよね(笑)
上田_こんなこと言っちゃ、あれですけど。原田さん、ライセンスでいろんな所に絵を貸してる…ってやってるじゃないですか。
ヒロ_うん。
上田_OSAMU GOODSじゃないところでね。近所のスーパーの衣料品売り場に行ったら、なんかね「これ、原田さんの?パチもん?」っとかって思ったんだけど"osamu harada"とかって書いてあるわけ。それで、本当に色とかがさ…最低なのね。だけど、原田さんにチラッと聞いたこと、あるんですよ。「いいんだよ、ああいうのは」って言ってて。その辺はね、すごくね、さっぱりしてたと思いますよ。でもホント、不思議な所で出会う(笑)
ヒロ_なんかイラストレーションって、デザインによって良くも悪くも見えちゃう。
飯田_そうですね。で、その…原田さんが何て言ってるかというとね。『anan』時代に…『anan』だけのことではないんですけれども…色んなスタイルで描いたと。「職人のように仕事をしようと思いました。約10種類のスタイルの中から、普遍性・大衆的な嗜好性などを考慮し、最終的に残ったのが"かわいい"というキーワードでした(2009年 No.12 『イラストノート』イラストレーションの個性を探る特集 インタビューより抜粋)」
自分の中の"かわいい"っていうものを使って仕事をしたい、っていう。それがOSAMU GOODSの考え方って書いてあります。「50年代のアメリカ文化を取り入れた、自分なりの"かわいい"スタイルにしたい」という風にはっきり言っています。その中で、OSAMU GOODSはキャラクターだけではなくデザイン・文字、全てが原田さんが描かれたってことで、OSAMU GOODSがより非凡なものになっていると思います。見てみると非常に、文字とね、絵の関係が上手い!と思います。上手い!という言い方はアレかもしれないけど…それは多分、原田さんのデザインとイラストの関係…さっき言った「私、上がってきたレイアウトが気になるわ…」っていうのと同じで、文字とイラストレーションとの絡みって絶対つきまとうじゃないですか、赤さん、ね?
赤_うん。
飯田_その時の原田さんの文字バランスっていうのかな、フォントの趣味が非常に良く映っています。それはたぶん、ものを良く見てるからね。「出来上がり、質感含めてデザイン全てを出来るので僕はOSAMU GOODSをやった」って書いてあって。
赤_色指定してたから、結構色のブレがないんだよ。それと『(OSAMU'S)MOTHER GOOSE』【8】なんか、彼がデザインしてるんだから。本人がやってるんだから。本人が"どう見せたいか"っていうのがすごくはっきりしている。だからやっぱり、自分もそうなんだけど…デザインを巻き込んでやらない限り、良い仕事なんて出来っこないんだよ。結局イラストはもう、コピーとデザイン…っていうかディレクションの出会いみたいなとこがあるんだけど。やっぱりイラストとしてインパクトが強いっていうのは絶対的な…よっぽど自分が上手く参加して、入って中からひっくり返すくらいじゃないと出来ないなぁ。
飯田_そうですね。僕も…皆さんも同じだと思いますけど。絵を渡して思ったよりもヘンに上がってくるって、だいたい…ほぼ…そんなもんだよね。たまに、えぇ!って。ほとんどが、思ったより…こうなっちゃったの?みたいなことかなっていう…(笑)勝手な意見ですけど(笑)
原田さんは全部出来たってことが良かったと思うし、形的なこと…あの…僕もキャラクター描いてないし、ヒロさんもキャラクター描いてないよね?
ヒロ_はい。
飯田_赤さんも?
赤_うん。
飯田_唯一キャラクターで食ってるのは上田さんだけっていう。
上田_(笑)
飯田_さっきも原田さんとのキャラクター競演の『Gals life』をさっき見せてくれたけれど、デザイン的なキャラクターの意味だよね。あるのかだよね、形的なことが。原田さんのキャラクターっていうのは、非常にこう、生活感がないっていうのかな、そこが魅力かなと思うんですけど。どうですか、生活感に関しては?
上田_そうですね。私はどっちかっていうとちょっと、ちょっと、生活感があるほうで。
飯田_そうですね。
上田_今やってる雑誌の表紙とかも"家族の生活"みたいな。キャラクターを活かしつつ、ちょっと可愛い親子みたいなのを描いたりしてますから、原田さんみたいにスパッと突き抜けてるのとは、またちょっと違うんですけど。でもやっぱり、先程飯田さんがおっしゃったように、原田さんがかわいいを追求するって言ってたじゃないですか。で、私も…自分ではその…すごくかわいいって思ってるわけじゃないんだけど、かわいくなっちゃう(笑)知らず知らずの内に…みんながかわいいと言ってくれる…(笑)そうなっちゃうんで、それは性としか言いようがない(笑)
で、やっぱりアメリカの50年代やその辺の世界がすごく好きだったし、原田さんにも通じるところがあるのかなって思ってます。
ヒロ_僕はキャラクター、やってないんで…。いっときやったことがあるんですけど、それこそ本当、クセが強すぎちゃって。万人に受けないものになっていっちゃう可能性が大でしたね。
上田_次、赤さんはキャラクターは?
赤_原田はもう単純に「かわいい」ってことに、それだけにポイントを絞ってたから、意味が違うよね。他の生活感とか私小説みたいなイラストレーションとは意味が全く違うから。生活感がない。
飯田_僕ね、同じこと、考えてました。
赤_ふはははは(笑)
飯田_あのね、原田さんって形態の人なの。基本的に。形なのよね。
赤_そう。
飯田_所謂"分割"とかね。基本的なそういった骨格が好きなんですよ。で、何故かって言うと、原田さんって抽象でしょう?そっから来てるんで、色や形のバランスの中で描いてるなって感じる。ロゴデザインもね。
赤_そう!
飯田_ロゴとかも。そのバランスでもって、たまたまそれがキャラクターのくまさんになってるだけなんだよね。
赤_このラインがそのものなんだよね。
飯田_そのものですよね。だから強い。
赤_ちょうど自分たちが、こう、大学出て…アメリカでプッシュピンが流行ってて。シーモア・クワストとか、いろいろなのがいたの。で、きっとそんな状況下でいろいろと影響を受けた人たちはすごい沢山いるんだけど、日本でも。だけどその中から"かわいい"を見つけたヤツはあんまりいない。原田だけだよ、きっと(笑)
飯田_"かわいい"けど形が綺麗。
赤_ああ、うん。それはもう。
飯田_それは所謂、構成力。
赤_アメリカのコミックをすごい研究してるから。それが特にそういう形にしてるんだよ。
ヒロ_確かに、ロゴマークって言われるとそういう感じがしますよね。イラストレーションっていうと、こう…均等がとれて、これ以上ないってくらいバランスを追求されて。ひとつの絵にしている、マークにしてるって感じがしますね。
飯田_それと、あの…何て言うかな。まぁ…これ難しいんですけどねぇ。あの…原田さん、身体の形って言うかね。腕の長さとかさ、指の大きさの形みたいな所に、中心になる円のセンターが見えるんだよね。その…弧で描くでしょう?(といって、コンパスで円を描くような仕草をする)それがすごく見えてくる。でもフリーハンドなんだね。
赤_うん。そうそう。
飯田_フリーハンドなんだよ。
赤_上手いの!
飯田_上手いよねぇ。それがある意味デッサン力なんだと思いますね。赤さんはね、所謂リアリズムのね、デッサン力なの。
赤_いやいや(笑)本当に定規で引いたみたいにこういう風に描くのはすごく難しいよ。
飯田_パソコンで描いてないからね、全然ね。一切ね。シャーピーっていう、あれだよね…サインペン、シャーピー。知ってます?
上田_油性の、アメリカのサインペン。
飯田_そうそう。………どうですか?硬い話が続きますが、眠くないですか?(と、会場に向かって話しかける)
会場_(笑)
飯田_授業じゃないからね(笑)