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OSAMUGOODS NEWS

2016年8月14日(土)に弥生美術館学芸員内田静枝さんによる『学芸員によるギャラリートーク』が開催されました。『オサムグッズの原田治展』の見処を少女文化に関する目線から解説。そのイベントの模様を前編・後編でレポートします。

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『少女時代によろしく』、『水森亜土』、『女學生手帖』など、著書多数な、弥生美術館学芸員内田静枝さん。今回の『オサムグッズの原田治展』の企画を行い、展示商品のセレクトや設営、期間中の様々な取材受付も担当されました。オサムグッズを集めた少女時代の経験談と、大正期から連なるイラストレーターのグッズの歴史を俯瞰されたギャラリートークは来場者の皆さんにとっても興味深いお話だったのではないでしょうか。弥生美術館の一階に展示されたオサムグッズを眺めながらの説明はとても分かりやすく、改めてその魅力を掘り起こす50分間となりました。前編中編に引き続き、後編をお届けします。

そういう訳でオサムグッズが人気になっていたんですけれども、原田先生がオサムグッズを作るに至った経緯につきまして、再びご説明させて頂きます。
先ほども申しましたように『an an』創刊からイラストレーターとして人気を博し時代の最先端をいっていた原田先生ですが、30歳を目前にして仕事に疲れを、行き詰まりを感じていらっしゃったそうです。イラストレーターとして順調なスタートを切り、プロとしてどんな要求にも応えられるように約10種類の画風を使い分けていたそうですけれども【1】【2】、30歳を迎えてあれもこれもというものではなくて、得意のスタイルに絞り込んで、オリジナリティーのある作品を作りたいと考えていらっしゃったようです。
その時に先生はいろいろと考えたようなんですけれども、そこで浮かび上がったのは「可愛い」というキーワードだったようです。
これは原田先生がエッセイでお書きになった言葉ですが" 「可愛い」には普遍性があり、大衆的な指向性に適っているから、仕事として経済効果が良いだろうと思った"ということなんですね。ご自身で書いておられるんですけれども、とにかく"「可愛い」というのは普遍性があり、大衆性がある"と先生はお感じになって、「可愛い」でやっていこうと決めたそうです。先生は「可愛い」について考え抜き、綿密な計算をした上で作品に反映していらっしゃいます。

『LITTLE DOG』は様々なスタイルのイラストを描いていた頃の作品をまとめたもので、OSAMU GOODSとはまた違った魅力が詰まった、原田ワールドを楽しめるファン垂涎の一冊。

OSAMU GOODSが出来たばかりの、30歳頃の治さん(画像中央)。OSAMU GOODS同様、素敵なスマイル!

ちょっと長くなりますが、せっかくですので原田先生の文章【3】をご紹介したいと思います。
全文はそちらに掲載しています。途中からになりますが…

「何でも屋のような生き方をやめて、他人があまりやっていないジャンルで、従って競争相手の少ない、自分にとっては得意なスタイルに絞り込んでのオリジナリティのあるものは何か。あれこれ考えて、10種類から消去法で残ったものが「可愛い」というキーワードでした。イラストの対象は子どもと一般女性に向けられました。なにより「可愛い」には流行よりも普遍性があること、つまり使い捨てよりは長持ちがする。趣味性より誰からも好かれる大衆的な嗜好性に適っている点、そのほうが仕事として経済効率が良いだろう、などと現実的な面をまず考慮しました。
自分の好きなジャンルでもあるから、最も簡単に気楽にできる、そんな云わば姑息な計算をして、いよいよアルバイト気分からは抜け出してプロとして仕事をスタートさせようと考えました。アート的な志向も、カルト的な志向も全く無く、むしろ古い職人気質のようなものに徹してやってみようと思ったものでした。
当時の日本で「可愛い」路線は、ほとんどが日本製少女マンガの世界でした。キャラクターという言い方はまだ通用していない時代です。東京ディズニーランドができるまでは、日本ではディズニーもののキャラクターはほとんど忘れられていた頃です。ぼくはもとより日本のマンガには全く興味を持っていませんでした。そこで昔から好きだった欧米の絵本やポップアート、50年代アメリカン・コミックスやハンナ・バーべラのTV短編アニメなどからヒントを得て、自己流のイラストを試みることに専念しました。
'75年に、いくらか自分なりの「可愛い」イラストが描けるようになった頃、広告の仕事で知り合った、コージー本舗の石井志津男さん(現在オーバーヒートというレゲエ音楽レーベルを主催)の発案企画で、ぼくのオリジナルのイラストを使った雑貨商品を製品販売したいとのオファーがあり、面白そうだね、と始めたのがOSAMU GOODSでした。新しいモノ好きで、ノリのいい石井さんがいなければ、ぼくには発想できなかったし、初めての実験的なチャレンジをぼく自身も楽しむことはなかったでしょう。(『OSAMU GOODS STYLE』 P218-222より)」ということです。

『OSAMU GOODS STYLE』では治さんがセレクトした約200点のグッズを収録、巻末にはイラストとデザインの解説も収録されており、クリエイティビティの源泉を垣間見る事が出来る。

次に先生のデザインのポリシーですが、まずは古き良きアメリカ1950年代60年代のアメリカ文化に的を絞ったそうです。
そして「可愛い」の表現方法は「終始一貫してぼくが考えた「可愛い」の表現方法は、明るく、屈託が無く、健康的な表情であること」。
その次が凄いなぁと思ったんですけれども「そこに5%ほどの淋しさや切なさを隠し味のように加味する」ということで、「可愛い」は「かわいそう」に繋がるというのが先生のご意見です。私も分かるなぁと思うんですけれども、ちょっと切なさがあるっていうのがオサムグッズの魅力なんじゃないかなと思います。
そしてですね、
「一過性のイラストと違って、長時間使用する物に描かれるので、できるだけシンプルで飽きのこない線や形を工夫しました。色彩は見る人に爽やかで、眼にみずみずしく感じる色を多様する。ビビットな色の場合は、なるべく色数を減らして単純な配置にすることなど、基本的なセオリーを決めました。(『OSAMU GOODS STYLE』 P222-224より)」

こちらに展示してる作品【4】【5】【6】がそういったコンセプトが一番分かりやすいかなと思ったんですけれども(2Fの版下製版展示あたり)、可愛いイラストを可愛いくデザインしていくのではなくて、ちょっと引いてみる。そこが原田治デザインの素敵なところなんじゃないかなと思うんですね。先生はイラストを「突き放したような冷淡な扱いにする」と言葉で表現されていますれども、可愛いものをコテコテ盛っていくのではなくて、物足りないくらいに、ちょっとこれでいいのかなという位のレイアウトにして、そしてすごくかっこいい書体の英文レタリングを合わせるっていう、そこに原田治の味わいがあるんじゃないかなと感じています。
私は、先生の文章を読んですごく感動しまして、有り難く思いました。変な話ですけれども、子どもの頃に大好きだと思って使っていたもの、それを素敵な大人が自分の知力と芸術的センスを尽くして作ってくれてたんだなということを、大人になって知りまして、本当に有り難かった、自分の少女時代はいいものだったんだなと思えることができました。それを世の中の人にこの期に伝えなければと思いまして、それが展覧会を開く原動力になりました。

(4)ショッピングバックが出来るまでのデザイン解説した展示。マーメイド姿のジルのキャラクターが可愛らしいのに打って変わり、キャラクターを彩るゴシック系大文字書体や考え抜かれたシェル型とカラーリング等、それぞれの配置がキャラクターを突き放したようにデザインされている。(5)セーラー姿のジルがセンターに描かれたエプロンは、ブルーのボーダーとOSAMU GOODSのロゴが爽やかな海を彷彿とさせるクールな印象。(6)手描きのデザインスケッチやレタリングの展示。今ではMacintoshでデザインするのが当たり前だが、昔はこうした手描きのレタリングをデザインし「版下」というものを製作して、印刷業者に指示して印刷したりグッズを作っていた。

 

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