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OSAMUGOODS NEWS

2019年8月25日に『原田治展』にて開催されたトークイベントレポート、Vol.3。出演は治さんの盟友でアートディレクターの新谷雅弘さんと、治さんや新谷さんとも交流が深いイラストレーターの信濃八太郎さん。新谷さんと治さんが共に制作した
写真集『Osamu Goods go to HAWAII』の撮影秘話や大日如来像とOSAMU GOODSの共通点など、目から鱗のお話も飛び出したトークイベントは、大盛況のうちに幕がおりました。その模様をお楽しみください。

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新谷_安いものでも“いい!”ってなっちゃう。ちゃんとデザイナーであり、何千点も自らデザインするでしょ?そんな人は日本に今までいなかったし、これからもたぶんもう、出ないでしょうね。
それで…ハワイ一緒に行ったとき1回ね、すごいことがあったんですよ。突然思いついたのかどうかは知らないけど…二人で買い物した後、化粧品とか売っているコーナーをずっと歩いていたら「新谷さん、これ知っています?」とかって言って、いろいろ教えてくれるんだよね。で、日本ではこれはもうない。これはハワイ製のなんとか…ってね。「日本に売っていませんよ、これ。新谷さん、どこが違うか分かりますか?」とかって言うの。知らねぇよ、そんなもの(笑)

会場_ははは(笑)

新谷_「蓋の所に赤い線が入っています、これ」って。そんなの、知らねぇよって(笑)得意がってそいういうセリフを言うわけ。すっかりその気になっちゃったのかなぁ…どんどん買うのよ!

信濃_ははは(笑)

新谷_どうするのそれ?っていう感じで。コレクションでどんどん買うの。それで買ったものをですね、持って帰るわけじゃないのよ。「え~、どうするんだろう?」って思ったらトイレに入りっぱなし。全部捨てるわけよ。いらないでしょ?中身はね。(欲しいのは)パッケージだけ。面白い匂いよ。

信濃_凄い匂いでしょうね?

新谷_凄い匂い!部屋中…もう死んだろうかというくらい(笑)それで、説明してくれるわけさ。一個一個。これはどこがいいか、私はこれを何年前から知っているかって、ね?
「これのここがいいんだ」と。要は“見方”。詳しかったなぁ……俺、驚いた!「原田君、ちょっとそれ、本にした方がいいよ」って言ったんだよ。「あなたみたいに詳しい人、知らないよ、僕は」って。僕も『Popeye』を作ってきた人間だし「MADE IN USA」について詳しいものを、特集で作ってはいましたけど…。USAの商品やパッケージについて、あんなに詳しい人は他に知らないもん。めちゃくちゃ詳しかったです。それがあっての“OSAMU GOODS”なんです。

信濃_へ~!そうなんですね…!

新谷_そうなんです。だから、なまじこれが好きだから…ってそんな、なまっちょろいモンじゃないのよ。ものすごく勉強しているのよ。ネタを仕込んでいるわけです。それはやっぱり…ご職業がね、お父さんの。やっぱり…輸入の缶詰とかを築地で売っていた店でしょ。だから、子供の時から輸入缶を見ているんです。パッケージをね、たぶんね。当然そうなるわね。
たぶん、そういうケがあるから面白かったんじゃない?こういう缶詰はどういうデザインで、どういう文字使ってて…どんな絵が描いてあって…みたいなことを鑑賞する力というのが、それでついたんじゃないですか?それで詳しいわけです。だから、ハワイ行くと…ものすごく詳しいんですね。

信濃_安西先生から伺った話で…これもまた、君たちはどれだけ勉強していないか、という話の流れなんですけど(笑)
新谷_あぁ、そうか(笑)

信濃_「昔、原田君と二人で電車乗っている時に、前に座っている人のシャツを見て、あれをCMYKに置き換えたらシアン何%、マゼンタ何%とかだよね、って。そんな話を二人でクイズのようにやったり。そんなことできないだろ?」「はぃ、できません…」「だからダメなんだよ!」って(笑)

新谷_あははは(笑)
信濃_そんなふうによく言われてました(笑)

新谷_それは…クセであったね、僕も。堀内さんと一緒に地下鉄乗るじゃない?堀内さん、絶対座らないんだよ。で、こうしてぶら下がって中吊りを批評するわけです。それがすっごい楽しみだった。

信濃_デザインについて?

新谷_うん、デザインについて。それはものすごく嬉しい授業でしたね。そういうことする癖がついている。まぁデザイナーの人はやっているんじゃないですか?たぶん。一般の方はそんなことやってもしょうがないけど。イラストレーター同士とか、そういう方達はやっているんじゃないですか?だから、今でこそ、そういうケがありますけどね。つい言っちゃうんだよね、そういうことをね。まぁ“うるせぇジジィだ”と思われてるでしょうね。

信濃_ははは(笑)

新谷_さっき…損保美術館でやっている展覧会が、今あるんですよ。レオ・レオーニ。ものすごい良いのよ。まぁ当たり前だけどね。で、原田君と同じことを感じた。もちろんすごい人繋がりなんだけど。ものすごい技法を変えるんです、あの人。
それで原画を今日、じっくりと見てきましたけど。鉛筆、マジック、パステル、色鉛筆、クレヨン、もちろん切り貼りのヤツ、それから油絵、ものすごい。あの人もアートディレクターなんだよね。

信濃_はい。

新谷_それでアメリカに亡命した時に、向こうで雑誌のアートディレクターをやっていたでしょ?ずっと。で、よくある話ですけど、甥っ子のために『あおくんときいろちゃん』を作ってあげたんですよね。それがバカウケして、それが発展して商品になって…。それであの有名な本でデビューしたんだよ。それまでは、デザイナーとしても絵描きさんとしても相当力のある人だったんだよ。

信濃_そうなんですね。

新谷_会場では『はらぺこあおむし』のエリック・カールが出ていまして。それでレオ・レオーニと話をしているんだよね。エリック・カールがデビューした時、レオ・レオーニに紹介された仕事でデビューしたっていう。それで彼の事務所に行ったんだって。そしたら驚いたのが、彼の事務所に行ったらスタッフがバーンといて、大人の人がブワァーっている!そんな大先生なわけですよ!
それでカールはびっくりしちゃって。イラストレーターだし、その辺でやっている人だと思ったら…とんでもないすごい人だったのよね。
偉い人なんだ!と思って。「こうこうこういうわけで、仕事ください」と言ったら、「ちょっと待っていて」と言われて、さっと書いたメモを渡されて。「ここに電話して作品を送りなさい」と言ってくれたんだって。
で、それを持って行って電話して、自分を売り込んで。今の大ベストセラーを描く男になったんだけど…「彼に世話になりました」と言っていました。それぐらい、ニューヨークですごい偉い人だったのよ。作品を見てて僕が感じたのは…本当にね、大それたこと言っちゃいけないと思ったね!

信濃_ははは(笑)

新谷_とにかく頭を使って描いてる。石の絵があるんですよ。ただの石ですよ?で、実際にある石も描いているんだけど、自分の想像の中でも石を描いている。その鉛筆デッサンのその細やかなこと!これは大変だわ~っていう。ものすごい神経を使って描いてて…濃い色が一切ないのよ。それを大きい画面に4つも石の絵を描いているのよ!何なのよ、これ?
どういうつもりなわけ?(笑)。命かけて描いているのよ。“あぁ、この人は偉い!”と思った。“こんなこと日本人には出来ない”と思ったね!あんなふうに日本人にはとてもいないし、根気もないし。水丸なんか見てくださいよ。

信濃_ははっ。あ、笑うところじゃないですね(笑)

新谷_俺が水丸にイラストの依頼をした時のことなんだけどさ。電話口で「あぁそうですか、分かりました、はいはいはい。」ってね、メモを取るフリをして、もう描いちゃっているんだよ!本当はもう絵ができてる。「はい分かりました…じゃぁ…一週間後にお渡しします!」って言った後に「あのさ、絵にトレペ(トレーシングペーパー)かけといて」って、スタッフに渡して。もう絵はできちゃってるの!「お前、電話を受けながら、描いてるだろ?」って、いつも言ってたの(笑)

信濃_ははは(笑)何て仰っていたんですか?

新谷_笑ってた!(笑)…パレットくらぶの個展をやったじゃない?色紙展ってのをやったんですよ。六本木でやったの。来ないんだよ、水丸の絵が。待てど暮らせど。「いいのかアイツ。分かってるんだろうなぁ?」「まぁそのうち来るでしょ」なんて言って。もう、俺なんか絵も描けないのに一生懸命描いてさ…「恥ずかしいから俺の点数減らして」とかやってたわけよ。で、来たのよ。「はいこれ」「何これ?」「だからそれ、梅干だよ」「えぇ!?梅干し?」シカクの中に赤いマルが描いているんだよ。「これは何よ?」って言ったら「冷奴」シカクの中にシカク描いているだけよ。「おい~これ、いつ描いたんだよ?」って聞いたら「朝」って。

信濃_ははは(笑)
新谷_おい、汚ねぇ~ぞっ!(笑)
信濃_「僕は豆腐を描くの好きだよ」とよく仰っていました(笑)
新谷_でもこれがいいんだわ、また。
信濃_そうですよね。

新谷_真面目に描く俺の絵の汚ねぇのなんのって。横に置くと「負けた!」って。もう、それだけで負けてしまうもの。「やられた!」って思うね。俺のこの努力たるや…

信濃_かなり気合が入っていらっしゃいますよね!拝見すると。新谷先生のカットもちょっと入っていたりするじゃないですか。「この人は誰だ?」って思ったら「あ、新谷先生か!」って。

新谷_いやいや~絵も描かないといけないじゃない?図々しくないと描けないよね。なるべくしないようにするんだけどさ、4人でやる場合は。隠したり、1点しか出さなかったりね。「みんなで出すから…私は1点で勘弁してください!」ってね。そういうことしていましたけど。だから、水丸とペーター佐藤と明石町(治さん)と4人で…彼のアトリエに泊まり込んで。それも個展、展覧会につながる作品を作ろうや、って集まって。おいおいと行ったんだよ。で、夜中…夜中ですよね?仕事はね。みんな昼はアトリエですから。

信濃_あぁ。

新谷_僕はもう絵を描かないつもりでいたし、描かなかったんだけど。とりあえずカメラマンに徹しているわけですよ。この時ばかりはアイツも文句言わないだろうと、下から撮ったり、上から撮ったり…いろんなことしてたんですけど…終いには飽きるのね(笑)
水丸は…何にもしないのよ。座ってるんだよ、禅僧みたいに。何ていうか…言い難いですけど…そうしてるんだからしょうがない。じーっとしているのよ。で、最後の最後…「もう寝ようか?」という頃にシャシャと描いたの!そういうタイプ。

信濃_禅僧のように、気持ちを整えるタイプ…?

新谷_なんかやっぱりね、そういう感じなんだよね。で、亡くなった時に本が出て…それで僕に「書いてください」っていう文章の依頼があって。いろいろ考えたんだけど…。要するに水丸さんは…ペンで描いているんです…丸ペンという細いペンですね。あれを使うんですけども。すぐペンを変えるんですって。「新しいのつける」って。「何でそうすんだよ?」って聞いたんですよ。そしたら「慣れるのがヤダ」って。

信濃_あぁ…そう仰っていましたね。
新谷_(ペンが)使い慣れると線が使い慣れた線になる。だから、ペンが使い慣れていないと線が“プツッ”ていっちゃうんだよね。
信濃_硬いうちはひっかかりが…

新谷_うん、上手くいかないのよ。それがいいんだって言ってて。「はぁ~、なるほどなぁ~」って。これは神様の声を聞いたって気がしましたよ。目からウロコだったよ!俺なんか使いこなしてから描こうかなって思うから(笑)
ねぇ!なんか心配じゃん?自分の思う通りいかないから。デッサンしている時によ?描いてた線がひょこって行っちゃうと「はぁ~…」って思うよね?自分としては失敗したと思うわけじゃない?水丸は天が描かせてくれたと思うわけよ、その線を。だから絶対に直さない。そういうタイプですから。

信濃_はぁ、なるほど…。

新谷_原田君は割合ちゃんとそういう所はきちっとやるよね。
だけど、和田誠さんと同じなんだけど、直さないということはある。どっかやっぱり…誰が見てもデッサンきちっと出来ている、ってものでもないのよね。どこかひとつ、ぐぁっと出来ているようなところが原田君の絵の魅力でもあると、僕は思います。あまりピシャッと描いていない感じがします。
この話はまた別の話になりますけど…原田君の描いている顔のコンポジション、目と鼻と眉毛と口…これは…。西村公朝さんっていう、僕の仏教美術の先生なんですけど。西村公朝さんに現場で仏像見ながら教えて貰ったことがあって。仏像っていうのは可愛い顔であるって言うんですよ。原田くんの絵と同じなんですよ。
眉毛が上の方にあって、かなり離れて目があって。観音像とか思い浮かべてくれれば分かります。真ん中に鼻があって、割と近いところに口があります。割にぐーっとこう、詰まってあるわけです。それでいて、輪郭は長めに置いてあるから、非常に邪気がない…子供なのに大人顔なんだよね。

信濃_あぁ!

新谷_“聖なる顔”なんですよね。“聖なる顔”を表現している。“聖なる顔”を描いてごらんって言われても描けないんですよ、結構。
美しい女性なのか?なんかね、偉そうに描けちゃうんだよ。どこかのご老人ですごい哲学者、みたいな絵を描いてしまうんだね。女の人を描いたらすごい立派な像だね。何をやらせてもできちゃう、みたいな。“すごい人”を描いてしまう。“聖なる人”を描こうとしても上手くいかないんだよ、これが。
どこに答えがあるかといったら結局原田君のあの顔なんだよ。あれ、“聖なる顔”なんですよ。邪気がない、どっこにも。こっちに戦いを挑んで来ているんだよ。で、知らん顔している。だけど…救われる顔なんだと僕は思うんですよ。

信濃_へぇ…。

新谷_だから共通しているんですよね。別に彼は仏像なんて考えていないですよ?ずーっと追求して、1ミリ2ミリを戦いながら、目をどこにって、自然にそこにいったんだろうと。で、仏像も…例えば国宝級の…運慶の処女作の大日如来像っていうのがあるんですよ。また見るチャンスがあるかもしれませんが…それがデビュー作なんです、運慶の。これが、同じなんですよやっぱり。可愛いの!すーんごい可愛い顔している。
だから、中国の仏像は知りませんけど…日本の仏像はそのように、ものすごく可愛いんです。そこに可愛さの原点があるんじゃないかなぁ…という気がしていて。
絵の方でいうとそっちに近い。褒めているとかそういう意味で言っているんじゃなくてね。誰でも可愛さを追求していったら、そこにいくんだという意味で言っているんですけど。たぶんそれは…これから皆さんも注意して仏像の顔のコンポジションを見てくだされば分かるんですけど、原田くんと同じ。眉毛がこの辺にあって、目がザーッと下のほうにあって、すぐ傍に鼻があって、口があるという。そういうふうなコンポジションになっているということに気がつくと思います。

信濃_一応、時間なので、ご質問等なければお開きとなります。ありがとうございました。

会場_拍手

 

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