NEWS –ARCHIVES–

OSAMUGOODS NEWS

2019年8月25日に『原田治展』にて開催されたトークイベントレポート、Vol.3。出演は治さんの盟友でアートディレクターの新谷雅弘さんと、治さんや新谷さんとも交流が深いイラストレーターの信濃八太郎さん。新谷さんと治さんが共に制作した
写真集『Osamu Goods go to HAWAII』の撮影秘話や大日如来像とOSAMU GOODSの共通点など、目から鱗のお話も飛び出したトークイベントは、大盛況のうちに幕がおりました。その模様をお楽しみください。

1
2
次のページ

トークショー出演者プロフィール紹介。画像左より

新谷雅弘さん
1943年生まれ。大阪市立工芸高校図案科、多摩美術大学を経て、堀内誠一氏の助手となる。1970年、『an・an』創刊に参加。170号まで携わり、その後『POPEYE』を1976年の創刊から80号まで手掛ける。『BRUTUS』(1980年~)、『Olive』(1982年~)でもそれぞれ創刊からアートディレクターを務めた。他にデザインを手掛けた雑誌に『鳩よ!』『Hanako』『GINZA』『MUTTS』(以上マガジンハウス)『たくさんのふしぎ』(福音館書店)『マミイ』(小学館)など。

信濃八太郎さん
日本大学芸術学部演劇学科舞台装置コース卒業。重要文化財自由学園明日館勤務、ペーターズショップ&ギャラリー勤務。パレットクラブスクール、コム・イラストレーターズ・スタジオ受講。 雑誌、書籍、広告などのほか、舞台美術やアニメーション作品の制作も行う。現在、WOWOWで放送されている『W座からの招待状』にご出演中。12月27日からは『W座を訪ねて~信濃八太郎が行く~』がスタートします。

新谷_※あそこのカウンターで(※パレットクラブ1階のバーカウンターのこと)しょっちゅう、原田君から説教を食らっては、すぐ帰って(笑)「また言われた」って(笑)

信濃_貴重なグラスがずらーって並んでいて。で、原田先生が肩にセーターかけてて(笑)肘をかけながら和かに、新谷先生とか安西先生とかとお話されている様子を…。横で聞かせていただいているだけでも、楽しい時間でしたよね。「新谷さん、何飲む?」なんて仰って。貴重なお酒がずらーって並んでいるんですけど。

新谷_そうそう…。パレットクラブの話はいいとしても、彼のOsamu Goods(go to HAWAII)の説明をちょっとしておきたいんですよね。

信濃_あの写真ですよね。

新谷_会場の後ろに掛かっているんですけど【1】…これはハワイに行って商品を持っていってですね、それで撮った写真なんですよ。その年にハワイには2回行っているんです。なぜ2回行くことになったか。4月に1回行っているんですよ。で、全然光がなかったんです。4月は曇りで天気が悪くて。それで仕方がないからもう1回って夏に行ったんですね。それで分かったのは、原田くんの絵は日本には全く合わないということ。

新谷_日本の街とか、ああいう所に置いてもまるで合わないんですよ。で、ハワイの空気とハワイの天候ではじめて合うという。
信濃_ほぉ~…

新谷_それは皆んなに…伝える感じの絵、なんだろうね。見ていると気持ちが明るくなるっていうかね。暗くはとりあえずならないっていう。そういうものだっていうことを、持って行って…撮ってみて分かったんですけど。
とにかく大きなボストンバッグにOSAMU GOODSをたっぷり詰めて…それで、車でハワイを走っていくわけです。あの辺に行こうっていって撮って。「商店街行こう」「女学校へ行こう」って持って行くわけ。それで、ボストンバッグをビーって開けて、それぞれ何点かずつ引っ張り出して「ここがいいかな?」なんて。置いて「いいね!」って写真を撮って。そういうことをやって撮ったやつなの。

会場_へぇ~…
信濃_すごい不思議な写真集ですよね。文章がひとつもなくて。
新谷_そうなんです。書くことがなくてね。

信濃_「これ、どこにOSAMU GOODSがあるんだろう?」ってぐらい、ちっちゃく引きで撮っている写真なんかもあって。原田先生・新谷先生、どちらが撮ったかも分からない。

新谷_あのね、可愛いって言葉があるでしょ?可愛いっていう言葉、彼自身も宣言していますけど。僕はね、 “可愛い”っていう言葉の展覧会があって、その冊子をたまたま見たんですよ。図録のようなものね。そしたら “可愛い”っていう言葉についてつらつら書いてあって。10項目くらいありましたよ。その中で“健気”っていうことが書いてあった。

信濃_“健気”?

新谷_うん。「健気で可愛い」って言うでしょう?健気に一生懸命やっている、っていうのがね。例えばテーブルを拭いているとかでもいいんですよ。誰も見ていないのに一生懸命「そこまでやらなくてもいいよ」っていうふうにしているのを見て「可愛いねあの人」って言うでしょう。そういうことですよね、可愛さって。

信濃_あぁ、なるほど。

新谷_それからもうひとつ、10項目の中に“ぽつんとある“っていう。 “周りに空間があってぽつんとある、それが可愛い”というのが、あるんですよね。それが作品の中に表れている。

信濃_あの一番右にある写真とか【2】。これどこにグッズが?木が2本あって海が見えている、それですね。
新谷_ここから見えないんだけど、全然(笑)
信濃_これ、どちらが撮ったとか特徴とかあるんですか?

新谷_僕は見りゃ分かりますけど、いやもう思いつきで。僕は責任があるわけよ。一冊(の写真集)にするってことについて。彼は編集者じゃないしね。僕だって編集者じゃないよ。だけど、ちょっとだけ編集していますからね、とりあえず。だから編集も兼ねているわけ。それに、彼は写真を撮ったことがないのよ。

信濃_そうなんですか?
新谷_うん、本格的に写真撮ったことないのよ。カメラも持っていないわけ。それで、金があることは分かっていたから(笑)
会場_(笑)
新谷_「銀座にちょっとおいでよ!」って、連れて行って。レモンって会社があるんですよ。何が売っているって、ライカが売っているのよ。
信濃_あー!

新谷_そこへ連れて行って、ライカの、オート設定で撮るカメラが出たばっかりだったの。「これを買え!」って、買わせたわけですよ。すると自動で撮れるでしょ?全部自動シャッターで撮れるんですよ。それを買わせて、持って行ったの。他のカメラは使ったことないですもん。
それで心配なわけね、やっぱり。心配だから僕も一応、2台カメラ持って行ったの。僕もライカなんだけど、僕はM6っていう自分で絞り込むヤツ。僕は写真をずっとやっていましたから…彼に写真を教えながら撮らせるという。

信濃_すごい。デジカメと違って何写っているか分からないんですもんね。
新谷_一眼レフですから。
信濃_その場で確認ができないというか。

新谷_できないできない。それでやっぱり二人とも素人でしょ?不安なんですよね。それで「とにかく原田君ね。自動で絞りが出るけどね、変えて。少しずつ。マニュアルにして、少しずつ。変えて6枚撮ってくれって」って言ったのよ。「ワンカット6枚撮ってくれ」って。この際、お金のこと言ってられないからね。そしたら1点くらい使えるヤツはあるんだよ!

信濃_ふふふ(笑)
新谷_手ブレとかもあるから必ず撮ってくれって。
信濃_そうですよね。

新谷_普通にしたら高くつくよね、スリーブ1本分ですからね。コダックのフィルムをドサッと買って持って行ってますから。それで、僕が露出を測って「8.5の何絞り」とかね。で、ハワイって驚いたのが、日本で絶対使えない、もう無いフィルムですけど…“ISO感度25”って分かりますか?感度のすごく低いフィルム。
そのフィルムがピッタリなの。光を吸い込んで。それでもガッと絞らなきゃ駄目なの。浜辺で撮ったのがそれですよ。あそこにあるヤツ【3】。グラスがあって…海がありますね。あれ、原田君が撮ったやつなの。(浜辺に)穴をほじくってさ…小津(小津安二郎)になりきって、ローアングルで。
あれなんかもうめちゃくちゃ(絞って)、自動では駄目なくらいね。だからガーッと絞って2000の1秒とかそんなので撮ってる。だからめちゃくちゃピントがいいのよ、あれ。

信濃_そうですね!

新谷_そんなことやってて。それでも不安でしょ?それで途中で向こうの現像所に出したのよ。撮った写真。出して1日待って。それで全部、見たんですよ。すると全部写っているの、これが!
びっくりしちゃった、ホント!一枚も失敗がないの!全部きれーいに写っているの!「よかったぁ~!」って。まずホッとして「凄いね、原田君。写っているよ!」「そうっすか、へ~」って調子なんだよ。な~んか、知らん顔してるんだよ。涼しい顔していた(笑)

信濃_いつでも涼しい顔してるんですかね?(笑)
新谷_そりゃそうでしょう、くそったれが!(笑)
信濃_ははは(爆笑)
会場_ははは(爆笑)

新谷_それで、この写真は僕のライカと、原田君のライカと僕のニコンと。3つのカメラを使って撮っている写真なんですよね。僕の撮った写真は全部分かりますよ。僕が撮ったヤツで…これはライカだな、これはなんとか。分かるので…当たり前だけどね。
それで彼のレンズは非常に広角なレンズだったので。それで良かったのは、住宅街の所に行って、玄関のところで撮るっていう、シーンがあったんですけどね。僕のカメラは住宅が入らないのよ、上手い具合に。

信濃_あぁ、なるほど。

新谷_で、彼のカメラ使って…ここには(写真が)出てないかもしれないけど…、玄関のところにグッズを置いて、住宅がバーンと向こうに写っているのが撮れたのね。そういうのは彼が撮ってるのね。後、Tシャツをぶら下げているヤツ【2】。あるでしょ?左から2番目のヤツ。

信濃_グラス?
新谷_グラスか!ここから見ると見れないや。それは…原田君が座って撮ったヤツ【3】ですね。

信濃_展示してあったアトリエの写真【4】は?
新谷_あれは僕が撮ったんです。あれは僕が他の仕事でね、原田君のアトリエに泊まらせてくれって頼んで。
信濃_すごくいい写真ですよね。

新谷_それで、やっぱり失敗したらまずいだろう?いつもの手で、ライカとニコンと…ハッセルっていう高いカメラがあるんだよ。ものすごい高い、古道具屋で買っても高いの。それを買ったのよ!そのために!

信濃_アトリエを撮るために?

新谷_うん。貯金叩いて、カラになるくらいに(笑)それを買って、そのまま持って行ったの。道具も、いろんなものを送って。大枚、えらい金かけて。でも使ったことがないから船の中でこうやって(と、ページをめくる仕草をする)使用書を読んでさ。

信濃_はははは(笑)ドキドキしますね!

新谷_でもな~…って不安になるよね。また(使用書を読んで)研究してさ。それで撮った写真があの中で、一番大きくのばしてくれているヤツ…アトリエにこうこうと電気がついてローアングルで撮ったヤツ【4(中央一番上の写真)】。あれは、床にカメラを置いて、寝てね。
ハッセルは上から見れるのね。そうやってね、撮ったの。あれは二人で協力してやりましたから。原田君はライト持って走っているんですよ、あれ。「あーあー、右右!」って。「この辺ですか~?」「もうちょいだな」「こう?」「イケるイケる、そのままじっとしていて!」って言って(笑)

信濃_写っていない所で(笑)
新谷_そう。「はーい」とか言ってカシャ。「もう一枚!」「もうちょっと下行ってくれる?」とか言って。その合作なの、あれは。
信濃_あのアトリエのデザインも…すごく素敵ですもんね!
新谷_とにかく、1ミリとも動かせないセッティングがしてあるんですよね。

信濃_今でも原田先生のブログが…皆さんも読まれてらっしゃるかと思いますけど。『原田治ノート』で検索すると、沢山のこだわりについて書かれている文章が残っていて…読めますもんね。

新谷_いや~、あのこだわりはね。菊地信義って装丁者…さっき言ったけど、あれがまたバカこだわり。
信濃_そうなんですか?(笑)

新谷_原田くんもバカこだわり。僕はなんにもこだわらない。落差が激しすぎるんですよね。兄弟漫才みたいなもんで(笑)
「どうでもいいわい!なんでもいいから飲みたいから早くよこせ!」って言うのが僕。「うるさい!」って言うのが原田君。そのうるさいものが、別に高いものじゃないのよ?でも彼の好きなものって、一貫していますからね。

信濃_そうですね~。

【4】トークショーの中で出てきた治さんのアトリエを紹介する展示がこちら。85年にチャールズ&レイ・イームズ夫妻のアトリエをモデルにして自ら設計した。新谷さんが撮影秘話を語ったアトリエの室内写真は、ちょうど真ん中に展示されている。間接照明の柔らかな光が印象的だ。

雑誌の企画で制作された映像作品『C’est si bon.』を説明する、新谷さん。アトリエの近所に暮らす犬のタロウくんが大自然を元気いっぱいに駆けまわる。この映像作品の制作で、新谷さんはカメラマンを務めたそう。

 

1
2
次のページ

関連記事_OSAMU GOODS NEWSより

関連記事_OSAMU GOODS STORYより

関連記事_WEBLOG 原田治ノートより